昭和大 医学部元講師の改ざん論文142本を不正認定し処分 

昭和大 医学部元講師の改ざん論文142本を不正認定し処分 
毎日新聞 2021/5/28(金) 20:15配信

 昭和大(東京都品川区)は28日、医学部麻酔科学講座の上嶋浩順講師(当時)が執筆した142本の論文について、データの捏造(ねつぞう)や改ざんなどの不正があったと発表した。このうち117本の論文を撤回するよう上嶋氏に勧告し、2020年5月12日付で懲戒解雇した。上嶋氏を指導する立場だった大嶽浩司教授を同日付で降格処分とした。

 論文不正を監視するウェブサイト「Retraction Watch(リトラクションウオッチ)」によると、117本の論文が撤回されれば、1人の研究者が関係した論文の撤回本数としては世界で3番目に多くなるという。

 同大の調査により不正が認められたのは、上嶋氏が15〜20年に執筆した142本の論文。麻酔を施した患者の年齢や身長、体重といった基礎データ、麻酔の手順などを記載した症例報告や、腰神経の麻酔に関係する臨床試験の内容をまとめたものなどだ。このうち75本では研究をせずに、患者の全てのデータを捏造していた。別の5本では、患者の合併症や、患者に使った薬剤名などを改ざんしていた。また、研究に関与していない大嶽氏を共著者としたり、一部のデータの取得だけに関係した助教を論文の責任者である筆頭著者としたりしたとして、131本で「不適切なオーサーシップ(論文著者資格)」を認定した。

 不正は20年3月、上嶋氏が論文を投稿した学術誌の編集者から、同大に対して疑義が寄せられたことで発覚。同年4月から論文とデータの照合作業や、上嶋氏や大嶽氏への聞き取りなどをしていた。

 調査報告書によると、上嶋氏は業務に対する姿勢が勤勉で、麻酔技術は外部から高い評価を受けていたという。上司の大嶽氏は、多くの論文を執筆する上嶋氏を信頼していたため、研究内容を定期的に確認せず、上嶋氏に任せきりにしていた。上嶋氏は若手医師を高圧的な態度で指導し、共著者とされた助教は上嶋氏の指導を受けられなくなることを恐れ、指示に従わざるを得なかったという。

 同大は再発防止策として、研究者が個人でデータを保管することが捏造や改ざんにつながるため、大学がまとめて保管する体制に改める。若手研究者を指導する立場の研究者に対し、定期的に研究倫理について研修する。

 久光正学長は28日、不正について「誠に遺憾で、研究に対する信用を失墜させ、多くの関係者に多大な迷惑をかけた」との謝罪文を、ウェブサイト上に掲載した。

 ◇専門家「独特な閉鎖性が不正の温床」

大量の論文不正が起きた背景には、相互批判を容易に受け付けない、日本の研究機関特有の閉鎖性があると専門家はいう。日本の研究への信頼がこれ以上失墜しないよう、不正を生まない研究環境を早急に整える必要がある。

 日本では、大量の論文不正・論文撤回がこれまでも繰り返されてきた。論文不正を監視するウェブサイト「Retraction Watch(リトラクションウオッチ)」によると、不正などによって撤回した論文本数が多い世界の研究者上位10人のうち、これまで日本人は4人だった。昭和大の元麻酔科医講師の論文のうち、不正が認められ勧告を受けた117本が撤回されれば、10人のうち半分を日本人が占めることになる。

 医師で、研究倫理に詳しい一般社団法人「科学・政策と社会研究室」の榎木英介代表理事は、その背景として、研究者間で気軽に相互批判できない上意下達の文化を挙げる。特に、医学部では、研究室の教授と研究員との間に「徒弟制」のような強固な上下関係がみられ、「教授には研究員の就職先の病院を決めたり、気に入らない研究員を制裁のために追い出したりする力がある」(榎木氏)という。こうした独特な閉鎖性が、不正を見過ごす温床になっているようだ。

 研究不正を取り扱う独立した公的機関がなく、不正が発生した組織自身に対応が任されているのも問題だ。榎木氏も「政府や学界が、独立した調査組織を作るべきだ」と訴えている。【小川祐希】

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