「わいせつ教師」は、なぜ教壇から完全に排除されないのか?
現代ビジネス 2021/8/29(日) 8:02配信
減らない教師によるわいせつ行為
筆者の地元中学校のPTAが「過去にわいせつ行為を行った疑いのある先生が転勤してきた」と騒いでいる。
わいせつ行為の事実関係は不明だが、PTAのネットワークと情報収集力の高さに驚くとともに、なぜわいせつ教師は教壇から排除されないのかという疑問を抱いた。
文部科学省の「公立学校教職員の人事行政の状況調査について」から、直近19年度の教職員のわいせつ行為の状況を見ると、273人の教職員がわいせつ行為等で懲戒等の処分(懲戒処分228人、訓告45人)を受けている。
このうち、児童生徒等(自校の児童生徒・卒業生で18歳未満の合計)に対するものは126人に上る。
教職員の処分数は、13年度に初めて200人を超えて以降、200人を下回ることはなく、増加が続いており、ピークは18年度の282人。19年度は前年度比3.2%減少しているが、それでも250人を上回り、過去2番目の多さだ。
処分を受けた教師のうち、わいせつ行為が「自校の児童生徒や卒業生で18歳未満の未成年者に対するわいせつ行為」によるものは、18年度が181人と処分者の64.2%、19年度が126人と46.2%を占めている。
19年度に懲戒処分を受けた教職員は全体で831人いるが、このうち「わいせつ行為等」による228人は全体の27.4%を占め、処分事由の中で最も多い。その中で、最も重い「免職」になったのは153人で、うち121人は児童生徒等に対するもの。現状でもわいせつ教師に対する処分は厳しいものとなっている。
学校種別で見ると、小学校でのわいせつ行為が増加している。19年度には処分を受けた教職員が80人に達した。
高等学校でのピークが18年度の101人、中学校でのピークが同じく18年度の86人を考えると、被害が低年齢化しており、「小児性愛障害」の被害は深刻だ。
懲戒免職処分になっても、また教師になれる
こうした状況に対して、文部科学省は20年12月25日、「児童生徒等に対しわいせつ行為を行った教員への厳正な対応のための法改正の検討状況及び今後の方策について」を発表した。
同省では、「わいせつ教師が二度と教壇に立つことがないように、懲戒免職等により教員免許状が失効した者の欠格期間を実質的に無期限に延長する教育職員免許法の改正を検討」したという。
教育職員免許法上では、「禁錮以上の刑に処せられまたは懲戒免職処分を受けると、その所持する教員免許状も失効」する。
しかし、教員免許状が失効しても、禁錮以上の刑に処せられた場合は刑の執行後 10 年、懲戒免職処分の場合は失効後3年後に、再授与を受けることが可能となっている。
これは現行の教育職員免許法では、教員免許の欠格事由が「禁錮以上の刑に処せられた者」という刑法の規定に依っているためだ。
例えば殺人罪などの重罪を犯し懲役刑に処せられた場合でも、刑の執行後 10 年で刑 が消滅することとなっており、法律上は教員免許を再び受けとることができる。
刑の消滅とは、まさしく刑罰の刑が消えることを指す。刑法では、一定の要件を満たすことを条件として、刑の言い渡しの効力が失われる。もちろん、刑が消滅すると言っても、“前科”は残るのだが、刑が消滅することで前科による資格の制限がなくなるため、再び資格を取得できるようになる。
さらに、同省は「小児性愛障害」(Pedophilic Disorder)に該当する者は、子供と身近に関わる環境下ではわいせつ行為を行うおそれがあるとの指摘から、“小児性愛の診断を受けた者を教員免許状授与の欠格事由とする”ことも検討した。
こうした検討を経て、わいせつ教師の排除に少しだけ進展が見られた。
新しい法律で何が変わったのか?
今年5月28日に議員立法により、わいせつ教師を教壇から排除するための「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律案」が可決・成立したのだ。公布日の6月4日から起算して1年以内に施行される。
では、同法によって何が変わるのだろうか。
まず、前述の実質的に無期限に教員免許状の授与を延期することは見送られた。刑法との法制上の均衡という“厚い壁”を破ることができなかった。
萩生田文科相が過去に「いまだ法制上乗り越えられない課題」があると発言しているように、刑法で刑の消滅が認められている以上、教育職員免許法だけ刑の消滅を認めないというのでは、“法制度上の齟齬”が起きてしまう。この議論を進めようとすれば、刑法の改正も視野に入れる必要があるということだ。
さらに、「小児性愛の診断を受けた者を教員免許状授与の欠格事由する」ことについても、現時点では小児性愛が疾病としての診断基準や診断体制が確立されておらず、児童性愛を教育職員免許法上の欠格事由として規定することは難しいと判断された。
結局、わいせつ教師の排除で進展したのは、わいせつ教師の免許状再授与は、“無条件”で行われるのではなく、都道府県教育職員免許状再授与審査会の審査が必要となったということだ。
教師だけの問題ではない
もう一点、進展したのは、教師を採用する際に採用希望者の過去の処分歴等に関する情報を、より簡便に参照できるように、官報に公告された教員免許状の失効情報を検索できる「官報情報検索ツール」の検索可能期間を、従来の直近3年間から40年間へと大幅に延長することにしたことだろう。すでに20年11月から5年間に延長されており、22年2月には40年間に延長する予定だ。
これを使えば、たとえば学校などは、採用希望者に免許失効の経歴があるかなどを参照することができるようになる。しかし、問題なのは懲戒免職処分の理由までは確認できないことだ。
そこで、教員免許状の失効情報の中に、例えば、わいせつ行為によるなど具体的な理由を入れることにしたのだが、果たして、過去40年分の理由が情報として提供できるのかは、いまのところ定かではない。
このように、わいせつ教師の排除は少しずつながら対応策が図られているものの、いまだに十分な対応が行われているとは言い難い状況にある。その上問題なのは、子どもたちに接する仕事は教師に限らないことにある。
例えば、保育士やベビーシッター、幼稚園の教諭、あるいは学童クラブや塾の講師、スポーツの指導者等々、子どもたちがわいせつ行為の被害にあう可能性がある仕事は多い。しかしながら、これらの職業に対しては、教職員のように法的な抑止策がない。
子どもの数が減少している中で、わいせつ行為による被害が増加しているということは、それだけ子どもたちが被害にあう確率が高くなっているということだ。教職員だけではなく、子どもに関わる職業を網羅した法的な抑止策を早く整備する必要がある。