「28年間に中高生114人が死亡」日本の学校柔道で悲惨な事故がなくならない根本原因
柔道大国フランスでは死亡事故ゼロ
PRESIDENT Online 2021/10/27 9:00
小林 恵子全国柔道事故被害者の会前事務局長
2004年、横浜市の中学3年生の男子生徒が、柔道部の練習中に意識不明の重体に陥った。顧問に何度も投げられ、絞め技をかけられたことが原因だった。男子生徒の母で「全国柔道事故被害者の会」前事務局長の小林恵子さんは「日本では中学校・高校の学校内における柔道事故で、28年間に114人も亡くなっている。一方、海外の強豪国ではゼロ。日本の柔道事故は異常に多い」という――。
2004年12月。その日はクリスマスイブでした。横浜の市立中学校の3年生で柔道部員だった三男は、練習中に意識不明の重体に陥りました。柔道部の顧問Aに何度も投げられ、首への絞め技を2度も掛けられました。その結果、急性硬膜下血腫、びまん性軸索損傷、脳挫傷、頸椎損傷が発症し、側頭部や喉の骨も折れていました。緊急手術で奇跡的に助かりましたが、高次脳機能障害という重い障害が残りました。
息子は何か感じていたのでしょう。練習に出ずに逃げ回っていたようでしたが、顧問Aは下校時に校門で待ち伏せしていました。そして、練習と見せかけて息子に激しい暴力を振るったのです。
「死線を彷徨うような重傷を生徒に負わせたのだから、学校はきちんと調べてくれる」
そう私たちは信じていました。ところが、学校は私たち被害者家族に何も知らせないまま、1月4日に横浜市教育委員会に「事故報告書」を提出していました。報告書には「当該生徒の生命に別条はない」とありました。息子はまだ生死の境にあって、実際翌日5日に2回めとなる脳の大手術をしているのに。しかも、学校はこのような重大な学校事故は地元警察に通報する義務があるにもかかわらず、それさえもしていませんでした。
学校や教育委員会に対し「なぜこのような事故が起きたのか?」と質問し、教育や柔道の専門家に調査分析を依頼してほしいと懇願しましたが、教育委員会からは「調査の結果、けがの理由になるものは何も見つからなかった」との回答でした。教育主事からは「息子さんは学校に行く途中に電信柱にでも頭をぶつけたのではないか」とも言われました。関係する大人たちすべてが息子の事故に真摯に向き合わず「あいにくの事故」という対応に終始しました。当時はSNSもなく、一度もメディアで報道されることはありませんでした。
「ほかの国で死亡事故は起きていません。日本は異常なのです」と文科省の担当者に訴えましたが、当時は信じてもらえませんでした(その3年後、文科省が多額の調査費を投じて調査しゼロであることを確認したそうです)。
この調査で私が驚いたのは、イギリス柔道連盟が指導者らに提示しているガイドラインの内容でした。そこには「成長期の選手の身体能力の未熟さを軽視した過度の訓練、不適切な訓練、過度の競争の3つは“虐待(Abuse)”である」と記されていたのです。
加えて、それら3つの虐待を見聞きした人がどこに連絡し、どう対処、改善すればいいかという方法が詳細に記載されていました。私たちは全文和訳し、被害者の会のホームページに掲載しましたが、それを参考にして改善したという声は残念ながら聞いていません。