女生徒9人が暴行され出産 36歳「加害教師」には“死刑か去勢”のインドネシア事情

女生徒9人が暴行され出産 36歳「加害教師」には“死刑か去勢”のインドネシア事情
デイリー新潮 2022/1/20(木) 6:00配信

被害者女生徒の深刻なショック

 インドネシアは世界第4位、約2億7000万人の人口を擁する。うち87%がイスラム教徒という世界最大のイスラム大国が今、その“倫理”を巡って大きく揺れている。

 インドネシアで最も人口が集中するジャワ島にある西ジャワ州の州都バンドン。ここでイスラム寄宿舎(プサントレンと呼ばれるイスラム教徒専用の寄宿制教育機関)を経営し、教師をしていたヘリー・ウィラワン容疑者(36)が逮捕された。立場を利用し、寄宿生活を送る14歳から20歳の女子生徒13人を性的に乱暴した容疑である。被害を受けた女子生徒のうち9人が妊娠し、宗教的に中絶が許されないことなどから出産を余儀なくされた。しかも女子生徒の1人は、2度出産したという。

 ヘリー容疑者には、犯行を隠す目的か、女子生徒が出産した赤ん坊を人身売買組織に売り渡していた疑惑も持ち上がっている。

 バンドン警察によると、ヘリー容疑者の犯行は2016年から始まっていたという。被害者の親族などからの情報提供に基づき、2021年5月から始まった内偵捜査を経て逮捕されたが、その卑劣な犯行が公になったのは昨年12月に裁判が始まってからだった。裁判開始まで事件を公にしなかったことについて警察は、「女子生徒に与えるさらなる心理的影響や社会的影響などを考慮した結果」と説明している。

“ゆるいイスラム教国家”として知られるインドネシアだが、イスラム寄宿舎で学ぶ女子生徒は、普段から頭髪を覆うヒジャブを着用し、長袖長スカートで皮膚の露出を最小限に抑える、伝統にのっとった敬虔な身なりをしている。ゆえに被害者やその家族が受けた心理的なショックは計り知れない。

化学的去勢や死刑を求める声

 現在進んでいる裁判で検察側は、ヘリー容疑者が経営していた寄宿舎の即時閉鎖と資産凍結、被害者への弁済5億ルピア(約350万円)に加え、罰金3億3100万ルピア(約230万円)の支払いを求めている。

 インドネシアにおいて強姦罪および児童保護法違反の刑罰は、最高刑が死刑となっている。「被害者感情」「宗教的倫理問題」などを背景に極刑が適当というのが世論になりつつあり、検察側も死刑を求刑する方向で検討を進めている。一方、死刑に反対する人権団体が求めているのが“去勢”である。

 実際に犯罪者の性器を切断するわけではなく、薬物で男性ホルモン「テストステロン」を低下させて性的衝動を抑制する、化学的な去勢である。諸外国にもある刑罰だが、インドネシアでは過去の事件を契機に、未成年者に対する性犯罪には化学的去勢や死刑など厳しい措置となった経緯がある。

 その事件とは、16年4月に西スマトラで起きた、学校から帰宅途中の14歳の少女が16歳から17歳の少年7人から集団で性的暴行を受け殺害された事件である。少女の遺体は裸のまま木に縛り付けられた状態で発見されるという、残忍な手口だった。この時もインドネシア国民の間で性犯罪に対し厳罰を求める世論が沸き起こり、ジョコ・ウィドド大統領が厳罰措置に踏み切ることになった。

 ヘリー容疑者への処罰についてトリ・リスマハリニ社会相は昨年12月14日、「女子学生の将来を奪った犯行は許しがたい」として化学的去勢への支持を表明している。

教育現場やネット空間での性犯罪

 こうした前例があるにもかかわらず、女子生徒が被害にあう性犯罪は減らない。女性児童省によると、2021年1月から11月までの間に発生した性犯罪は少なくとも8800件に上っている。しかも今回のヘリー容疑者の事件同様、イスラム寄宿舎や大学など教育現場で教師が加害者になる性犯罪が増えていると、同省は警告している。

 たとえば、2021年に西ジャワ州のタシクマラヤや中部ジャワ州のチラチャップでは、学校の「成績評価」を餌にした教師によるセクハラ事件が起きている。また、コロナ禍でリモートによるオンライン授業が進んだ最近も、インターネットおよびSNSでの性被害が増加している。SNSを介して親しくなった男性から「顔写真や裸の写真を送れ」といわれて興味半分に写真を送り、「写真をネット上に公開してばらまくぞ。嫌なら金を送金しろ。実際に会おう」という恐喝紛いの事例が多いという。首都ジャカルタでは、2021年の1年間に「オンライン上でセクハラや暴力を受けた」という女性や子供からの訴えが489件と、近年で最高に上ったという。

男尊女卑が残るイスラム世界

 こうした性犯罪の背景には、イスラム教における「男尊女卑」の面が影響しているのではないか。

 イスラム原理主義者であるタリバンが実権を掌握したアフガニスタンでは、女性の教育機会、社会活動が厳しく制限されている。身内以外の男性と共に外出することや手首以外の肌を露出することなどが禁止され、違反すれば処罰を受けるなど、女性には過酷な環境となっている。これに比べれば、一部地域(スマトラ島北部アチェ州)を除いて“ゆるい”イスラム国家であるインドネシアだが、それでも「男性の優位性」は社会の各方面に残り、それが利用されている。スマトラ島リアウ州で2021年に起きた、警察官から暴行を受けた女子大生が妊娠し中絶を強要された末に自殺した事件も、そうした弊害のひとつだろう。男性は売春などの婚外性交、婚前性交をなんら問われることなく享受している一方、女性には性に関して厳しい「倫理性」が求められているのが実情だ。

 もっとも、ヘリー容疑者への厳罰が求められている世論もまた、イスラム教ゆえのものだ。多くの国民が死刑を望んでおり、少なくとも去勢は避けられないだろう。裁判の進展、判決の行方に注目が集まっている。

大塚智彦(フリーランスライター)

デイリー新潮編集部

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