「本当に悔しい」暴力や暴言…“指導死”で娘を失った母親の思い

「本当に悔しい」暴力や暴言…“指導死”で娘を失った母親の思い
FBS福岡放送 2022/11/3(木) 18:26配信

暴言や暴力にかぎらず、教員の不適切な指導によって、子どもが自ら命を絶つことは、“指導死”と呼ばれています。同じ悲しみや苦しみをもう誰にも味わってほしくない。そんな信念が、娘を失った母親を突き動かしています。

■侑夏さん
「3年間の最後を6組で過ごせて本当によかったです。1年間ありがとうございました。」

おととし春、福岡市の中学校を卒業した侑夏さんは、高校生になってわずか4か月後、15歳で自ら命を絶ちました。

■侑夏さんの母親
「本当にうちの子はすごく優しい子なんですよ。うちの子のことを知っている人、みんなそう言うと思うんですけど、穏やかで優しくて、いじめとかが嫌いでですね。」

侑夏さんの『侑』の字には、『助ける』という意味があります。その名の通り、困った人には手を差し伸べる優しさがあり、多くの友達に慕われていました。

幼いころから打ち込んでいた剣道は2段の腕前です。剣道部の特待生として、福岡市東区にある博多高校に入りました。

しかし、侑夏さんは剣道部の当時の男性顧問から「貴様やる気あんのか!」「そんな試合するなら試合出させんぞ」などと、執ように暴言を浴びせられると、母親に打ち明けていました。

さらに、侑夏さんの手首には、通常の稽古では考えられないようなひどいあざができていたこともありました。

■侑夏さんの母親
「(アザを)見せてもらって、どんな練習をしたらこんなことになるのかというふうに思っていました。」

到底、稽古とは呼べない暴力にもさらされていたのではないかと、母親は、もう1人いた別の男性顧問に相談しましたが、何の対応もありませんでした。

次第に追い詰められていった侑夏さんは、ツイッターに苦しい胸の内をつづっていました。

午前7時3分に「部活ていう存在が死にたい原因なのにね」、午後0時9分に「死ぬために学校休んだ」、午後1時9分に「誰が悪いって心が弱い私が多分悪いです 迷惑かけてわがままばっかでごめんなさい」と書き込んだ直後、侑夏さんは帰らぬ人となりました。

■侑夏さんの母親
「自分が入って(博多高校剣道部を)強くしたいと、この高校を強くするためにと思って入ったのに、なんかもう、その気持ちを踏みにじられたというか。思いが叶えられずに、こういう形になっているってことが本当に悔しく思いますね。」

教員の不適切な指導によって追い詰められた子どもが死を選ぶことは、“指導死”と呼ばれ、少しずつ知られるようになっています。

教育現場の問題に詳しい教育評論家の武田さち子さんです。武田さんが調べたところ、平成に入った1989年からことしまでに、“指導死”に該当するケースが、全国で未遂も含め、106件報道されたといいます。そのうち、2018年は中学校で4件、高校で3件のあわせて7件です。一方、文部科学省の統計では、『教師との人間関係』を理由とする自殺者は、この年、1人もいないことになっています。

■教育評論家・武田さち子さん
「“指導死”の場合、学校での出来事が原因になっていますので、親も知らないことも多い。後になっていろいろ周囲から情報が入ってきて、多くはほかの児童・生徒やその保護者からの情報なのですが、ここで初めて、亡くなる前にこういう指導があったんだと知ることができるわけです。(国の)統計さえきちんと上がっていないということは、非常に問題だと思っています。」

■侑夏さんの母親
「どうしていないのかなと、どうして彼女がいなくならないといけなかったのかなーって。」

なぜ娘が、自ら命を絶つほど追い詰められなければならなかったのか。その理由にたどり着くため母親は、侑夏さんの死から1年後、博多高校を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こすことを決意しました。

こうした意向を弁護士を通じて伝えられた博多高校は、母親が提訴する前に、事実関係を認めて和解を申し出ました。

和解案では、剣道部の当時の男性顧問による、指導を超えた暴言や暴行の実態が明らかになりました。『必要以上に何度も竹刀で倒したり突いたりしたこと』、『練習試合後、ほかの部員全員の前で、どなりつけたこと』、『稽古を欠席したり、見学したりすることが増えた侑夏さんに対して、「お前には特待生としての責任がある」と責めたこと』などが記されました。

当時の2人の男性顧問は学校側の聞き取りに対して、いじめや体罰のつもりではなかったと話していたということです。

母親と面会した際には、自分の指導が不適切だったことを認め、1人は後悔していると泣きながら謝罪したといいます。

■博多高校・檜垣泰史校長
「学校としての責任を感じております。生徒さんを預かっている上で学校においてこのような不幸な出来事が起きたので、あとはもう学校としてできることを、責任もってできることをやっていくだけだというふうに考えました。」

10月25日、侑夏さんの母親は、博多高校と最終的に和解しました。和解の内容には、再発防止策も盛り込まれています。すべての部活動で年に1度、顧問の指導方法を検証することや、これから入学する生徒や保護者に教員の不適切な指導によって生徒の命が失われたことを説明することが明記されました。

侑夏さんの母親は今後、すでに博多高校を去っている当時の2人の男性顧問に、改めての謝罪と賠償を求める方針です。不適切な指導の背景は、まだ明らかになっていないと考えているからです。

■侑夏さんの母親
「どうして、そういった指導がいけないのかというようなところを、ご本人たちがちゃんと反省して振り返っていただかないと。きつい練習とか暴言が叱咤激励につながるというような考えが、子どもを傷つけることになるということを、ちゃんと考えていただきたい。」

夢の中でしか会えない娘を思うと、いまも涙があふれます。それでも母が、歩みを止めることはありません。これ以上、誰にも同じ思いはさせたくないからです。

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