担任のいじめ問題 県教委に報告促されたのに野洲市教委対応せず
毎日新聞 2022/12/14(水) 6:00配信
滋賀県野洲市の市立小学校で学級担任による児童へのいじめ行為が相次いだ問題で、2021年度に起きた事案について市教委が県教委への報告を怠っていたことに絡み、市教委は県教委生徒指導・いじめ対策支援室から、教職員の人事や懲戒処分を担当する県教委教職員課と連携して対応するよう促されていたのに報告していなかったことが関係者への取材で判明した。教職員課に未報告の場合は処分の対象にならない。
この学校では、4年生の担任だった男性臨時講師が特定の児童をアニメのキャラクターに例えたことで、同級生が児童をからかういじめ行為につながったなどとして22年2月に担任を交代させた。関係者によると、この臨時講師は21年4月以降、家庭の用事で欠席した児童について、「USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にでも行っているんやろう」と発言▽児童に「給食の準備を10分でしないと食べさせない」と伝える▽女子児童の髪に触るなど距離が近い――などとして、校長や教頭が繰り返し指導していたという。
関係者によると、学校や市教委の対応に疑問を抱いた保護者が22年1月、支援室に相談。支援室は2月までに少なくとも計5回、市教委と情報を共有した。支援室は子供同士のいじめ事案を扱うため、担任の不適切な言動に関しては教職員課の助言を受けて対応するよう伝えたという。支援室の担当者は「我々の役目は子供同士のいじめを止めることで、そこを中心に関わった。教員の指導が必要だという認識は強くあり、教職員課と連携して進めてほしいと考えていた」と話す。
しかし、市教委は教職員課に報告せず、22年度も別の教員によるいじめ行為が起きた。22年9月に毎日新聞が一連の問題を報じたことで21年度の事案の未報告が判明。市教委は10月の市長定例会見で謝罪し、早急に報告するとした。その後、口頭で教職員課に報告したうえで報告書をまとめている。ただ教職員課によると、臨時講師は野洲市での任期が満了し、別の自治体の学校で勤務しているため、処分ができない可能性がある。市は報告を怠った関係者の処分も検討する。
市教委は毎日新聞の取材に対し、「支援室から助言を受けた時点で教職員課に報告すべきだったが、業務が多忙で、手が回らないと考えてしまった」などと釈明。「隠蔽(いんぺい)の意図はなく、反省している」と話した。
◇保護者「隠蔽としか思えない」
21年度に担任の不適切な言動で子供が被害を受けたある保護者は、西村健・市教育長に面会するなどして、担任の処分や校長の異動を繰り返し訴えてきた。「市教委からは『教職員の人事や処分は県教委が判断する』と言われてきたのに、県教委の担当課に報告していなかったなんて、隠蔽としか思えない」とショックを隠せない。
未報告の発覚後、市教委から「担任の交代で十分と考えてしまった。校長には新年度もお子さんが安心して学校生活が送れるよう対応してもらいたいと考えていた」などとする謝罪文を受け取ったが、「正面から非を認めず、言い逃れをしようとしている」と不信感が募った。
保護者は「市教委の対応の甘さが、今年度に再び教員によるいじめを引き起こした原因の一つだと思う。真摯(しんし)に間違いを認め、二度と同じ過ちを繰り返さないでほしい」と力を込めた。
◇県教委 横の連携もなく
一方で、県教委生徒指導・いじめ対策支援室は、市教委に県教委教職員課に助言を受けるよう促しながら、自らは教職員課とは情報を共有せず、結果的に毎日新聞の報道まで教職員課が問題を把握できなかった。
2022年1月に保護者から相談を受けた支援室は市教委に状況を確認。それから両者は密に連絡を取り合い、学校が担任を交代させた2月には保護者説明会の内容も共有、支援室は教職員課との連携も促した。しかし、市教委は問題を報告せず、支援室も教職員課と情報共有することはなかった。
支援室は「教職員の服務に関することは市教委の判断で責任を持って対応すべきだ。多数の相談を受けており、全ての事案を県教委の関係課と共有していたら業務が回らない」と説明。県教委の福永忠克教育長は「対応に落ち度はなかったと考えている。ただ、県教委内で横の連携がしやすいよう、努めていくことは必要だと思う」と話した。
教育評論家の尾木直樹さんは「教員がいじめをすれば子供たちは必ずまねをするので、不適切な言動には厳しく対応する必要がある。県教委はアンテナを敏感に張り、『心配だから教職員課に話してみよう』など、個別に判断することも時には大切だ」と指摘。一方で、「日本には市教委が適切な対応をしているかチェックする機関がない。首長の教育行政への権限は強化されており、教育委員会と協議する『総合教育会議』を開くなど、野洲市長が隠蔽を許さない姿勢を示すことが重要だ」と話した。【村瀬優子】