娘がいじめられ涙、高校に「何度も相談したのに」 学校側が“誠実な対応”を取らなかった理由

娘がいじめられ涙、高校に「何度も相談したのに」 学校側が“誠実な対応”を取らなかった理由
西日本新聞 2023/6/7(水) 8:30配信

 「いじめを訴えたのに泣き寝入りさせられるようで、悔しさと悲しさでいっぱいです」。西日本新聞「あなたの特命取材班」に、高校生の娘がいる母親からこんな投稿が寄せられました。学校でいじめられて休むようになったにもかかわらず、相談しても誠実に対応してもらえなかったといいます。

【投稿(2023年2月時点)】
 公立高校2年生の娘の母親です。娘が2年生になっていじめに遭い、不登校になりました。クラスの女子全員から、無視されています。お昼に弁当を一緒に食べようとしても、「ほかに座れば」と突き放されます。体育の授業などでもクラスに存在しないように扱われ、本人は「我慢する」と言っていましたが、毎日だと、心が折れます。昨年7月から時々休むようになり、学校に何度も相談しましたが、きちんと対応してもらえませんでした。

 相談するたびに、担任は「相手の名前を出してもらった上で、事実確認をしないといけない」と言い、名前を出さなければ動けないとのこと。名前を出すと、さらにいじめがエスカレートする恐れがあり、了承できませんでした。いじめは続き、秋には娘は教室に入るのにも、恐怖心を抱くようになりました。

 登校しなかったり、登校しても、教室に入らず帰ったり、保健室で過ごしたり、一進一退でした。本人は「嫌なことばかりだけど、休んだら負けた気になる」と言って、何とか頑張ろうとしていました。しかし、今年1月にはある男子生徒からも「いじめられてるー」などと言われ、「やっぱり自分はいじめられているんだ」と感じ、心が折れたようでした。

 担任にそのことを相談すると、間もなく席替えでその男子生徒が隣になったといいます。娘はさらにショックを受け「先生も含めて、みんなグルだ」と感じ、まったく登校できなくなりました。

 娘を守ってあげたいです。通信制高校への転入も考えていますが、いじめを訴えたのに泣き寝入りさせられるようで、悔しさと悲しさでいっぱいです。

【あなたの特命取材班から】
 投稿があった2月、お母さんに面会し、話をうかがいました。いじめを苦にした自殺はたびたび報道されており、取材班は、娘さんにその危険性がないとも限らないと考えました。

 対面した際、お母さんも娘さんも泣いていました。娘さんはやはり「死にたいと思っていた」と漏らしました。心身への負担を考え、4月から通信制高校へ転入することになりました。転入が決まった3月、取材班は学校に取材を始めました。

 学校は、いじめについて「本人と保護者から『相手の名前は言えない』との要望があり、事実確認ができませんでした」と回答。ただ、担任が「名前を言わないと事実確認できない」と主張してきた点について、「代替案を示せなかったことに課題が残る」と反省を述べました。

 いじめを巡っては、2012年に大津市の中学生の自殺が発覚して社会的な問題となり、国は13年に「いじめ防止対策推進法」を施行。いじめによって児童・生徒の生命や心身に重大な事態が起きることを未然に防ぐため、関係者の対応を定めました。

 具体的には、学校に「いじめ防止基本方針」の策定、教職員らによる「いじめ対策組織」の設置を義務づけ、いじめの早期発見、防止を責務としています。その上で疑い事例があれば同組織で共有し、早急な事実確認を求めています。

 独立行政法人・教職員支援機構(茨城県つくば市)は具体例として、保護者が対応を求めなかった場合でも、すぐに生徒たちの行動を細かく見て事実を確認して指導することで、深刻化を防いだことを紹介しています。

 今回の件について学校は、いじめの訴えを受けた昨夏からいじめ対策組織の議題になっていたことを明らかにしました。ただ、欠席が少なくなった時期があり、問題が改善しつつあり、緊急事案ではないと判断したと説明しています。

 娘さんの2年次の欠席日数を確認すると、10月で合計26日に達していました。ただ、11月はゼロになり、この点を学校は「改善」と捉えたようです。同法では、いじめの重大事態の目安として「年間30日」の欠席を挙げています。娘さんの欠席は翌年1月には30日を超えました。少なくとも、この時点で重大事態として認識する必要がありました。

 親子が納得できる対応を受けないまま、娘さんが学校を去る事態に至りました。学校は取材を受けた後、母親に連絡し、「調査をしたい」と申し出ました。母親は「なぜ在学中に対応をしてもらえなかったのでしょうか。今つらい思いをしている子に寄り添ってあげてください」と断りました。取材班が、学校に調査を申し出た理由を尋ねると「(重大事態の目安となる)30日を超える欠席があり、遅ればせながら、調査をお願いした」と説明しました。

 娘さんは通信制高校に転入した本年度も、恐怖心から教室に入ることができない状態や腹痛が続いているといいます。ただ少しずつ新たな環境に慣れ、前向きな考えも持てるようになってきるそうです。

 国立教育政策研究所(東京)によるいじめの追跡調査(2013〜15年)では、小中学生の9割がいじめを受けた経験、した経験があることが分かりました。いじめは、ささいなことをきっかけに、どの子にも起きうる問題です。

 いじめを防ぐには学校や大人、当事者の生徒たちはどのような対応が求められ、何ができるのでしょうか。(水山真人)

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