教室にカメラ設置、採用時に適性検査…塾講師の性犯罪、各社が対策
朝日新聞デジタル 2023/8/30(水) 12:00配信
大手中学受験塾、四谷大塚(本部・東京)の元講師が在職中、教え子の女児(9)にわいせつな言動をさせたうえ盗撮した疑いで警視庁に逮捕された。首都圏で中学受験熱が高まるなか、同様の事件を防ごうと、複数の大手進学塾が新たな対策に乗り出している。ただ、リスクをゼロにするのは難しく、「限界がある」との声もある。
元講師(24)は19日、強要と東京都迷惑防止条例違反(盗撮)の疑いで逮捕された。捜査関係者によると、社員だった5月上旬、都内の教室で「勉強しないとお仕置きする」などと教え子の女児に言い、下着が見えるような姿勢を取らせて、ひわいな言葉を言わせたほか、その様子を自分の胸ポケットに入れたスマートフォンで撮影した疑いがある。容疑をおおむね認めているという。
この日、女児は授業を受ける予定はなかったが、元講師から親を通じて指導名目で教室に呼び出されたという。元講師は事件発覚後の今月10日に懲戒解雇されている。
■事件を受けて四谷大塚は
四谷大塚は再発防止策として、スマートフォンなどの写真や動画が撮影できる機器を教室に持ち込むことを禁止した。
さらに、家庭から教室内の様子をリアルタイムで確認できるシステムを開発し、全校舎の全教室に設置する方針を発表した。プライバシーの保護や不適切な利用を防ぐ必要があることから、担当者は「開発は慎重に進めていく」という。
森上教育研究所によると、今年の首都圏の中学受験率は15・0%と過去最高だった。受験率とは、首都圏1都3県の公立小の全6年生の人数に占める、東京・神奈川の私立中を2月1日午前に受けた人数の割合だ。中学受験熱が高まるなか、小学生の通塾も増えているとみられ、危機感を覚えた他の大手進学塾も対策に乗り出している。
■早稲田アカデミー、サピックス、栄光ゼミナールは
首都圏を中心に展開し、小中高生約5万人が通う早稲田アカデミーは事件を受け、全校(約180校)の全教室に防犯カメラを取り付けることを決めた。講師がいる職員室にモニターを置くとともに、録画機能も備える方針で、秋にも配備を始める。伊藤誠専務執行役員は「費用がかさむので勇気のいる決断だったが、子どもの安全が最優先。ハード面の整備も必要だと判断した」と話す。
全国268教室に約3万3千人が通う個別学習塾大手の東京個別指導学院は、通塾生と教室外で会わないこと、教室内で2人きりにならないことなどを盛り込んだ服務規程の徹底をメールで周知。管理職会議でも注意喚起した。
同塾ではパートやアルバイトの講師が約1万1千人いて、9割ほどが大学生と大学院生。以前から、社員である教室長や副教室長が、授業が行われている教室内を頻繁に巡視しているが、通知や会議で、この巡視の強化も求めたという。
リスクのある人材を採用しないようにする取り組みもある。栄光ゼミナール(約200教室)を展開する栄光は講師採用の際、不祥事を起こす傾向を測るため、適性検査を行っているという。入社時には、子どもを傷つける行為をしないことなどを誓約する文書を提出させたりして子どもの安全確保に努める。事件を受け「更に徹底する」としている。
首都圏や関西に教室を展開する中学受験大手のサピックス小学部。今回の事件の前から全50校舎のほとんどの教室にカメラを設置。受付横のモニターで保護者も見られるようにしてきた。職員や警備員が常に巡回しているほか、講師には密室で1対1にならないよう伝えているという。授業がない日の呼び出しも禁止している。
講師としてふさわしいか見きわめるため、採用試験では面接を重視しているという。
ただ、広野雅明・教育事業本部長は「危険のある人物を見きわめるのは難しく、塾の取り組みだけでは限界もある。事件を受けて改めて対応を検討している」と話す。
また、関西などで進学塾を展開する浜学園は全ての教室にカメラを設置し、講師の授業や生徒の授業態度を確認しているという。