「息子は教員の“指導”で死んだ」16年間訴え続ける父親 子どもの自殺「詳細調査」わずか4.6%しか行われず
TBS NEWS DIG Powered by JNN 2023/12/29(金) 6:32配信
学校でお菓子を食べたことを教員から1時間半にわたって叱られ、自ら命を絶った13歳の男の子がいます。父親は「教員からのいきすぎた指導により、子どもが追い詰められ、自ら命を絶つこと」を「指導死」と名付け、経験を語り続けてきました。「指導死」を防ぐために、何が求められているのでしょうか?
■「1時間半の指導…何が死に追いやったのか」指導死を無くすため訴え続け16年
大貫隆志さん(66)
「負けず嫌いで、何でも一生懸命に取り組む陵平が、なぜ死のうって思わなきゃいけなかったのか」
12月、日本体育大学で教員を目指す大学生らに語りかけた大貫隆志さん(66)。2000年に当時中学2年生(当時13歳)だった次男の陵平さんを自殺で亡くしました。
陵平さんは、学校でお菓子を食べたことを教員から1時間半にわたって叱られ、翌日に遺書を残し、自ら命を断ちました。陵平さんを自殺に追い詰める、教員の不適切な指導があったと大貫さんは考えています。
しかし大貫さんには、この1時間半に何があったのか、当初、学校側からは十分な説明がなかったといいます。
大貫隆志さん
「1時間半の指導で何があったのか、校長に何度も質問しました。最初は答えてもらえず、学校を訪ねて問い詰めると『教員から聞き取りをしています』と校長は答えました。『聞き取りの内容を教えてください』と食い下がると、校長は引き出しからメモを取り出し、メモを読み上げ説明しましたが、聞き取りにくい部分があったので聞き返すと、1回目に聞いた内容とは全く違う回答が返ってきました。何故最初の回答と違うのか問い返すと校長は『このあと出かけなければいけないので』とそれ以上説明せず出ていきました」
「何かが陵平を死に追いやった。それが何なのかを確かめることが、親としての私の務めだと思いました。1時間半の指導でどんなことが行われていたのか、私が知りたかったそのことに学校側がきちんと答えてくれたとしたら、誰のせいにもしないという思いのままでいられたのかもしれない」
■子どもの自殺の背景調査 わずか4.6% 遺族に説明していないケースも
今年、文部科学省は初めて、子どもの自殺が起きた際に学校側がどう対応し、調査しているのかについての調査結果を公表しました。
文科省の指針では、子どもの自殺が起きたときには、学校がまず事実関係の整理である「基本調査」を行ったうえで、自殺に至るまでの経緯などを「詳細調査」を通して調査すべきだとしています。
2022年度の子どもの自殺者数は411人でした。(※厚労省発表の自殺者数514人とは人数に差がある)
このうちおよそ40%のケースで「詳細調査」という制度があることや、調査の希望について、遺族に説明していませんでした。また、実際に「詳細調査」が行われたのは、わずか4.6%しかありませんでした。
さらに、遺族が調査を求めているにも関わらず、学校側がこれを拒否する場合や、学校側が遺族からの信頼を得られずに対立することで、調査に長い時間がかかる場合もあるといいます。
こうしたことから「不適切な指導」による自殺=「指導死」として認められているケースは、ごくわずかしかありません。
■ようやく動き出した対策 「不適切指導」の7つの事例
去年12月、生徒指導の基本書「生徒指導提要」が改訂されました。12年前に生徒指導提要ができてから、初めての改訂です。
改訂によって、「懲戒と体罰、不適切な指導」という項目が初めて盛り込まれ、ようやく国が対策に乗り出した形です。
そこには「不適切な指導」について、7つの具体例を挙げたうえで、「不登校や自殺のきっかけになる場合もある」と記載されました。
(1)大声で怒鳴る、ものを叩く・投げる等の威圧的、感情的な言動で指導する。
(2)児童生徒の言い分を聞かず、事実確認が不十分なまま思い込みで指導する。
(3)組織的な対応を全く考慮せず、独断で指導する。
(4)殊更に児童生徒の面前で叱責するなど、児童生徒の尊厳やプライバシーを
損なうような指導を行う。
(5)児童生徒が著しく不安感や圧迫感を感じる場所で指導する。
(6)他の児童生徒に連帯責任を負わせることで、本人に必要以上の負担感や罪
悪感を与える指導を行う。
(7)指導後に教室に一人にする、一人で帰らせる、保護者に連絡しないなど、適
切なフォローを行わない。
この7つの例は、これまで「不適切な指導」で亡くなった子どもが置かれた状況に見られるケースで、大貫さんは「まずこの7つの点を学校現場で行わないように徹底することから始めなければならない」と話します。
日本体育大学で大貫さんら「指導死」遺族の講演を聞いた、教員・指導者の“卵”の学生たちは、「指導死」について―。
講演を聞いた日本体育大学修士1年生
「話を聞いて、学校から正しい説明を受けることができなかったり、切実な対応をされなかったりしていることが、遺族の悔しい思いをさらに大きくしていると思いました。将来的に、自分が教える側になりたいなと思っているからこそ、同じことは絶対に起こさないように伝えていくべきだと思いました。人として、自分の知ってるだけのことでしか対応できないと思うので、まず『知ること』がとても大切だと感じました」
子どもを「指導死」に追いやらないようにするため。
大貫さんが訴え始めてから、もう16年が経ちました。
対策はいま、ようやく、わずかに動き出したに過ぎません。