埋もれた「体罰情報」 大阪市、公益通報殺到でパンク

埋もれた「体罰情報」 大阪市、公益通報殺到でパンク
産経新聞 2013年1月14日(月)7時55分配信

 大阪市立桜宮(さくらのみや)高校でバスケットボール部主将だった2年生の男子生徒=当時(17)=の自殺にからみ、「公益通報制度」の窓口に事前に寄せられた同部の体罰情報が生かされなかった問題で、同市の公益通報の受理件数が他の政令指定都市に比べて突出して多いことが13日、消費者庁への取材で分かった。同市では多数の通報をさばききれず、体罰情報の調査も市教委に丸投げされていた一方、他の政令市では受理件数がゼロと制度がまったく生かされていないケースも目立っており、制度の運用方法が問われそうだ。

 ◆他都市はゼロも

 消費者庁によると、公益通報制度を運用する全国の政令指定都市で平成23年度に受けた通報は、計631件。うち大阪市は561件と9割近くを占めた。2位は神戸市の33件。12市は0件と自治体によって大きなばらつきがあった。地域差が出たのは、制度が公益通報者保護法に基づいて規定されるものの、運用については各市がそれぞれ条例で定めているためという。

 大阪市では、通報窓口を市内部に加えて弁護士ら6人で構成される外部の公正職務審査委員会にも設けている。通報対象内容も法令違反に限らず、不適正な行為にも広げている上、市職員や市民以外の通報も広く受け付けている。

 もともと通報制度は企業や行政機関の不正の告発者を守るためにできた。大阪市で運用範囲を広げたのは、広範な不祥事の防止を目指して条例で踏み込んだ規定をしたためとみられるが、一方で弊害も指摘されてきた。

 実際、大阪市が同年度に受理した通報中、調査対象とした314件のうち、是正措置がとられたのはわずか5件。市では審査委が調査対象を選定しているが、通報が膨大で内容が多岐にわたるため、選定だけでも時間がかかる。審査委自体が調査する案件も年に数件にとどまり、大半は所轄の各部局に丸投げされる。

 桜宮高のケースで、生徒に聞き取りをしなかった市教委調査の欠陥を指摘できなかったように、審査委が調査の妥当性を十分に検証できていないのが実情。そのため、委員の増員や専門部局の設置など態勢強化を求める意見が出ていた。

 ◆周知行き届かず

 一方で他の政令市には、外部窓口がなかったり、通報者を内部関係者に限定していたりするケースもある。市民の周知が行き届いておらず、制度が定着していない側面も通報が少ない原因とみられている。消費者庁幹部は「大阪市はこれほど通報が多くなるとは思っていなかったのではないか。一方で、公益通報が認知されていない自治体もあり、制度が形骸化しないよう、態勢の見直しが必要かもしれない」と話した。

【用語解説】公益通報者保護法

 東京電力の原発トラブル隠しや雪印食品の牛肉偽装など消費者の安全を脅かす企業不祥事が、内部告発で相次いで発覚したのをきっかけに、平成18年4月に施行された。企業や行政機関の不正行為を告発した社員や職員らを解雇などの不利益から守るためで、各企業や行政機関が通報窓口を設置しているほか、消費者団体や報道機関などにも告発できる。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする