<アイヌ遺骨収集>北大「盗掘はなかった」 関係者反発「重大な人権問題」 北海道
毎日新聞 2013年3月29日(金)17時15分配信
北海道大が28日公表したアイヌ遺骨の学内調査報告書は、長年にわたるずさんな管理体制を浮き彫りにした。「人類学の研究のため」という美名の下での研究者の行為。北大は「盗掘はなかった」と説明するが、関係者からは反発の声が上がった。
北大は児玉作左衛門・医学部教授を中心に1934(昭和9)年から、道内各地のアイヌ墓地で遺骨を収集し、戦後まで続いた。これに対し、アイヌ側は「盗掘にほかならず、遺骨以外に副葬品も持ち去った」と指摘。当時の道ウタリ協会(道アイヌ協会)は82年、北大に慰霊と遺骨の返還を申し入れた。
この日の記者会見に先立ち、北大の担当者が道アイヌ協会に出向き、報告書の概要を説明。道アイヌ協会の加藤忠理事長は「遺骨の収集状況を検討すると、非常に重大なアイヌ民族への人権問題をはらんでいる。研究のために集められた遺骨がいまだ一致しない保管状況は無念きわまる思い」とコメントし、遺骨の早期返還を求めた。
アイヌ遺骨収集の問題点を指摘した本「学問の暴力」の著者、植木哲也・苫小牧駒沢大教授は「大学側に当事者意識が薄く、アイヌに対する無意識の差別意識が残っているのではないか。望ましくないやり方で得た研究成果はきちんと償うべきだ」と指摘。北大が収集方法に問題がなかったと結論づけたことに「世界の流れに逆行する時代遅れの発想」と切り捨てた。
アイヌ遺骨問題を追及してきた市民団体「北大開示文書研究会」の清水裕二・共同代表は「学者の論理でアイヌ民族の命の尊厳が踏みにじられたが、責任を感じていないような官僚的な報告書」と憤る。遺骨返還についても「遺族や関係者も高齢化しており、もう待っていられない。いったい3年間何だったのか」と北大の姿勢を指弾した。
北大の三上隆副学長は「時間をかけて調査した結果。この調査報告書を出発点に、関係者の理解を求めていきたい」と話している。【森健太郎】
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【アイヌ遺骨をめぐる動き】
1865年 英国領事館員が森町など2カ所で遺骨を発掘
88年 小金井良精・帝大医科大(現東京大医学部)教授が道内各地で遺骨を発掘。翌年も
1924年 清野謙次・京都帝大(現京都大)医学部教授がサハリンで遺骨を発掘
34年 児玉作左衛門・北海道帝大(現北海道大)医学部教授が八雲町で遺骨を発掘。翌年も
55年 北大医学部解剖学教室が静内町で遺骨を発掘。翌年も
65年 北大医学部解剖学教室が江別市で遺骨を発掘
82年 北海道ウタリ協会(現アイヌ協会)が北大に慰霊と遺骨の返還を申し入れ。北大は遺骨1004体を保管していることを明らかにする
84年 北大に納骨堂完成。イチャルパ(供養祭)を毎年実施
85年 北大が旭川市の遺骨5体と釧路市の遺骨7体を返還
87年 北大が帯広市の遺骨19体を返還
95年 北大が旧三石町(新ひだか町)の遺骨1体を返還
2001年 北大が旧門別町(日高町)の遺骨3体を返還
12年 アイヌ3人が北大に遺骨返還を求めて札幌地裁に提訴