降圧剤問題 「ノ社と大学に責任」 中間報告 今後の調査、限界も
産経新聞 2013年10月1日(火)7時55分配信
製薬会社「ノバルティスファーマ」の降圧剤「ディオバン」(一般名・バルサルタン)を使った臨床研究のデータ操作問題で、厚労省の検討委員会が30日、中間報告をまとめた。報告は問題によって生じた医学界の信頼低下の責任は「ノ社および関係大学の双方」で負うべきだとしたが、厚労省は「大学側の責任追及をすることは難しい」とみており、今後の調査には限界があるという。
◆“思惑”生まれた隙
本来なら医学や薬学の進歩のために行う臨床研究で、なぜ問題が発生したのか。中間報告はその背景について、ノ社と大学がそれぞれ抱いていた“思惑”を指摘している。
ノ社の念頭にあったとするのは、「臨床研究を自社製品の販売戦略に使う」という狙いだ。一方、データ不正が明らかになった京都府立医大と東京慈恵会医大は、いずれも主任研究者が新たな主任教授として着任したばかり。関係者間の結束を強化する必要があり、そのために大規模な臨床研究はうってつけだった。
本来の目的があいまいなまま、企業と大学の“思惑”で進められた臨床研究。中間報告は「医学的研究以外の意図などを有する者が関与する隙を与えた可能性がある」と分析した。
◆国内外二重基準?
外部からの金銭提供で研究の中立性に疑義が生じる「利益相反」の管理にも問題があったという。
ノ社は府立医大の講座に総額約3億8千万円、慈恵医大の講座に総額1億9千万円を奨学寄付金として寄付。こうした資金提供などは「営業を含めた業務の一環として行われた」が、透明性は確保されなかった。
さらに、ノ社の元社員が臨床研究に関与したことについても言及。同時期にスイス本社が関与した海外の臨床研究では、公表された論文で適切に利益相反の状況が説明されていることに触れ、「スイス本社は利益相反の管理に関する内外でのダブルスタンダード(二重基準)を黙認したか、日本法人に対するスイス本社の指示が適切でなかった」との見解を示した。
◆「保険財政に影響」
中間報告は医療保険財政への影響についても懸念を示した。データの不正操作を基にした論文は、関係学会のガイドラインに影響を与え、高血圧治療を行う医師の処方が変更されたとの指摘があるからだ。
「患者が高い薬を買わされ、保険者が保険料を払わされているという問題もある」。検討委メンバーで、全国薬害被害者団体連絡協議会の花井十伍(じゅうご)代表世話人はこう話す。
厚労省は中間報告を受け、ノ社に立ち入り検査などを行う方針。ただ、大学については「薬事法上(立ち入り検査を)できない」と説明、今後の追及はノ社が中心になるという。ノ社の二之宮義泰社長は30日、「当局の調査に全面的に協力したい」と謝罪した。