“漂流”する児童ポルノ 古い映像もネットで流通、捜査難航
2009年6月28日20時55分配信 産経新聞
「またこれか」。児童ポルノ事件摘発のたびに繰り返し押収され、捜査員がうんざりする映像がある。
まだ10歳そこそこのあどけない少女が写った動画だ。撮影時期は昭和57年ごろとみられている。一部では「古典」とも言われ、マニアには根強い人気があるという。
警視庁は昨年11月、児童ポルノを販売目的で所持していたとして児童買春・児童ポルノ禁止法違反(提供目的所持)の疑いで、北海道の会社員(49)と、茨城県の県立高校臨時講師(33)を相次いで逮捕した。まったく接点がない2人だったが、持っていたわいせつな映像は同じ。「古典」の少女が写った作品だった。ともにネットオークションにDVDを出品して販売し、“小遣い”を稼いでいた。
警視庁の調べで、少女は当時11歳の日本人女児であることは確認されている。だが、どんな経緯で撮影されたかは分かっていない。「いま30代後半だろう女性は、まだ自分の裸が出回っていることを知っているのだろうか」。捜査員は映像に映る少女の笑顔に出くわすたびに、そんなことを思うという。
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児童買春・児童ポルノ禁止法改正が今国会でいよいよ審議入りした。ただ、与野党の議論はかみ合わず、いきなり足踏み状態に陥っている。そうした中でも、児童ポルノの製造・販売事件は絶えない。
「重視すべきなのは、インターネットからダウンロードしたデータをDVDに収めて売る『二次製造』が多いことだ」と警察庁幹部は語る。一度、世に出た児童ポルノはネットを“漂流”し、再度流通する。
「『援交(援助交際)ものはないか』と問い合わせがあって売り始めた。よく売れた」
神奈川県警が同法違反の現行犯で逮捕した会社員の男(38)=茨城県土浦市=は県警の調べにこう供述したという。
男の逮捕容疑は、児童ポルノが入ったDVD4枚を所持したこと。県警への取材によれば、平成16年ごろから児童ポルノの販売を始め、これまで1000万円を売り上げていたという。
県警の調べによると、当初は、インターネット上からダウンロードした作品を売っていたが、のちに“オリジナル”に触手を伸ばした。出会い系サイトで知り合った18歳未満の少女との性交を収めたDVDも売るようになったという。「本人に幼児性愛の嗜好(しこう)はない。児童ポルノに手を出した理由は『売れる』、それだけだ」。県警幹部は苦々しげな表情を浮かべた。
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そんな“漂流物”のひとつに、かつては「合法」とされていたものもある。写真家の故清岡純子氏が撮った少女ヌード写真がそれだ。警視庁が今年3月、同法違反容疑で逮捕した埼玉県蕨(わらび)市の会社員の男(49)は18歳未満の少女が写った「清岡作品」をまとめたDVDを所持していた。
作品は、同法施行前の昭和50年代に撮られたもので、きわどい少女の肢体が収められている。平成11年の同法成立後、出版社は一部の作品を絶版としたが、それが逆に価値を高める格好となった。現在は違法となった“人気商品”。これがネット経由で売買されている。
静かに、だが、確実に存在する「児童ポルノ人気」。神奈川県警は昨秋、児童ポルノの画像投稿サイトを開設したとして、同法違反の疑いで、無職の男(43)を逮捕した。運営していた「さくらんぼ女学院」は、3年あまりの間で、約6155万件のアクセスがあった人気サイトだった。男は「金もうけのためにやった。広告代理店と契約を結び、いいときで月に60万円ほど稼いだ」と供述したという。
ビデオ業界関係者はその人気の秘密についてさらりと語る。
「通常流通している成人が出演するビデオだって『JK』(女子高生)や『援交』をうたった作品は人気が高い。そりゃ“本物”ならもっと売れますよ」
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新作、旧作、元合法…。いったん世に出れば、ネット上を永久に“漂流”する児童ポルノ。ネットが舞台となることで捜査に難しさもつきまとう。法改正の議論が停滞する一方で、この種の犯罪は増加傾向にある。児童ポルノの現状を追う。