飯塚花笑監督『ブルーボーイ事件』今秋公開へ 中川未悠、前原滉、中村中、錦戸亮ら出演

飯塚花笑が監督を務めた映画『ブルーボーイ事件』が2025年秋に公開されることが決定した。 『僕らの未来』(2011年)、『フタリノセカイ』(2022年)、『世界は僕らに気づかない』(2023年)など、トランスジェンダー男性であるというアイデンティティを反映した作品作りで国内外から注目を集める飯塚監督が、“性別適合手術”が違法とされた1960年代の事件から着想を得た本作。 1965年、オリンピック景気に沸く東京で、街の浄化を目指す警察は、街に立つセックスワーカーたちを厳しく取り締まっていた。ただし、ブルーボーイと呼ばれる性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受け、身体の特徴を女性的に変えた人々たちの存在が警察の頭を悩ませていた。戸籍は男性のまま、女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にはならない。そこで彼らが目をつけたのが性別適合手術。警察は、生殖を不能にする手術は“優生保護法”(※現在は母体保護法に改正)に違反するとして、ブルーボーイたちに手術を行っていた医師の赤城(山中崇)を逮捕し、裁判にかける。同じ頃、東京の喫茶店でウェイトレスとして働くサチ(中川未悠)は、恋人の若村(前原滉)からプロポーズを受け、幸せを噛み締めていた。そんなある日、弁護士の狩野(錦戸亮)がサチのもとを訪れる。実はサチは、赤城のもとで性別適合手術を行った患者のひとり。赤城の弁護を引き受けた狩野は、証人としてサチに出廷してほしいと依頼する……。 東京オリンピックや大阪万博で沸く高度経済成長期の日本では、国際化に向け売春の取り締まりを強化する中、性別適合手術を受けた通称ブルーボーイたちを一掃し街を浄化するため、検察は手術を行った医師を逮捕。手術の違法性を問う裁判には、実際に手術を受けた証人たちが出廷した。飯塚監督は当時の社会状況と事件について徹底的に調査し、裁判での証言を決意したトランスジェンダー女性・サチを主人公に物語を構想。その渾身の企画に惚れ込んだのが、『深夜食堂』シリーズ(2009年〜)をはじめ、『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007年)、『岸辺の旅』(2015年)、『月の満ち欠け』(2022年)などを手がけてきた映画プロデューサー・遠藤日登思だ。飯塚監督らと何度も脚本の改訂を重ねながら、オリジナル作品として本作を完成させた。 「この物語を描くには当事者によるキャスティングが絶対に必要」という監督の強い意志のもと、主人公・サチ役の起用にあたっては、様々な経歴を持つトランスジェンダー女性たちを集めたオーディションが行われた。多くの候補者の中から主演に選ばれたのは、ドキュメンタリー映画『女になる』(2017年)への出演経験を持つ中川未悠。演技経験はないものの、自らの経験をもとにサチ役に見事に同化していく姿に感銘を受けた監督たちによる大抜擢となった。 裁判の証人となるサチのかつての同僚たちを演じるのは、これが映画初出演となるドラァグクイーンのイズミ・セクシーと、NHK連続テレビ小説『虎に翼』(2024年度前期)にも出演したシンガーソングライターで俳優の中村中。またブルーボーイ役として真田怜臣、六川裕史、泰平らが出演する。さらにサチに証言を依頼する弁護士の狩野役を錦戸亮、彼と敵対する検事役を安井順平が演じるほか、前原滉や山中崇らも共演に名を連ねている。撮影監督は芦澤明子が務めた。 あわせてティザービジュアルと特報映像も公開された。 なお本作は、Pontaパス会員向けサービス「au推しトク映画」の対象作品に選ばれている。 【コメント】 ●飯塚花笑(監督) 「ハタチ過ぎたら誰もがみんな自殺だわね……」これは「ブルーボーイ事件」の映画化にあたり、資料の山に埋もれていたときに出会った1950年代のゲイバー(当時はゲイバーと表現されていたお店で)に出入りしていた、1人の名もなき性的マイノリティの言葉です。嫌に昭和的な口調と、ルポ本に添えられたスナップ写真がこの言葉に重みを付け加え、今もずっと私の胸の中に居座っているように感じます。この映画でトランスジェンダー当事者の俳優を主演に起用し、オリジナル作品として取り組むことを心に決め、走り始めてから6年余り。映画が完成した今思うのは、ずっとこの日本の社会の中に存在していたのに、無かったことにされて来た声たちが私を突き動かしていたのだということです。「ずーっとここにいたんだよ……」この映画が広く・そして深く皆様の心へ届きますように。この物語は私たちの物語であり、“貴方”たちの物語です。 ●中川未悠(主演) サチ役を演じさせていただきました、中川未悠です。初めてのお芝居、初めての映画出演、初めてお会いする人たちばかり。全てが私にとって初めてで、不安が大きかったですがキャストの皆さん、スタッフの皆さんに優しく接していただいたので凄く楽しい現場でした。サチを演じさせていただくからには、1人でも多くの人に希望をもって生きてもらいたい! と思いながらお芝居に取り組みました。ブルーボーイ事件は事実に基づいたお話しなので、より身近に感じていただきやすいストーリーになっています。登場人物ひとりひとりの想いがたくさん詰まった、愛のある作品です! まだまだ差別や偏見はありますが、私はこの作品を通じて誰もが幸せになる権利があることを伝えたいです。私は今回サチに出会い、サチの言葉に勇気をもらえました。観て下さる方々も勇気や希望をもらえると思います。是非、映画館でご覧ください。 ●遠藤日登思(プロデューサー) 「オリジナル脚本で映画を作ろう」という呼びかけに集まった企画の中に「ブルーボーイ事件」がありました。約6年前のことです。当時、私はこの事件のことを知りませんでした。企画書や資料を読み、日本の性別適合手術の歴史を知っていく中で、50年以上前、確実に存在し証言台に立った3人のトランスジェンダーのことを想像しました。そして、飯塚監督が当事者の1人として感じてきたこと、当事者の役は当事者に演じて欲しいという強い思いを聞き「映画にしなくては」と思いました。とはいえ、当事者の方のキャスティングを実現させるのは簡単なことではなく手探りのオーディションを進めました。同業者からは「難しいことをしてるねぇ」と言われたこともしばしば。途中コロナ禍で挫折しかけた時も並走してくれたプロデューサー陣、脚本チーム、そしてオーディションに集まっていただいたトランスジェンダーの皆さんにあらためて感謝します。感想は人それぞれでも、観ていただければ必ず熱の伝わる映画が完成したと思います。

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