高額献金の勧誘などをめぐり、国が求めた通り、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に解散命令を出した東京地裁の決定要旨は次の通り。 【前提事実】 旧統一教会は1964年7月16日に「世界基督教統一神霊協会」として設立され、2015年8月26日に名称変更した。文部科学大臣は23年10月13日、解散命令を申し立てた。 元信者は87年3月、違法な勧誘で入信させられ、霊感商法や献金を強制させられたとして旧統一教会に損害賠償を求めて提訴。各地で同様の訴訟があり、32件で損害賠償の全部または一部が認められた。 信者の店では07年以降、客らの不幸と先祖の因縁を結びつけ、不幸を免れるためとして印章などを売りつける特定商取引法違反(威迫・困惑)容疑で信者が逮捕され、教団施設が強制捜査された。07~09年に4件の刑事裁判があり、信者が罰金刑や執行猶予付きの懲役刑を科された。 旧統一教会は09年、法令遵守にかかる公式文書を出した。先祖の因縁とことさらに結びつけた献金の奨励や勧誘をしないこと、過度な献金とならないように十分配慮することなどが示された。他の文書も含め、コンプライアンス宣言と総称する。 安倍晋三元首相は22年7月8日、信者の家族に銃撃され死亡した。直後から旧統一教会の活動が社会的に注目され、国の施策や立法が行われた。文科相は22年11月以降、旧統一教会に7回、報告徴収・質問権を行使。110項目の報告がないとして23年9月、旧統一教会の代表役員に過料を科すよう東京地裁に求めた。地裁は24年3月26日、代表役員を過料10万円に科し、確定した。 【国の主張】 旧統一教会は、(1)財産を差し出さなければならないと思い込ませて献金させる(2)先祖の因縁により、自身や家族らに重大な不利益が生じると告げる「因縁トーク」で不安をあおり、献金させる(3)犠牲を払っても献金をすべきことを告げる――などし、法令に違反する行為にあたる。多くの人に多額の損害を与え、生活の平穏を害した。宣言などの施策は十分な実行性が認められない。 【旧統一教会の主張】 献金や物品購入は自発的な信仰心からされた。勧誘が不法行為にあたるような形で行われることはない。裁判所は過去の民事判決で、元信者の供述に基づき、誤って不法行為を認定しているが、実際には不法行為はなかった。誤解されるような事態を根絶すべく、宣言を行った結果、信者間のトラブルは劇的に減少した。問題状況は完全に解消されている。解散を命ずることはできない。 【法令に違反する行為の内容及び規模】 元信者らが旧統一教会側に損害賠償を求めた民事訴訟で、請求の全部または一部を認めた判決が32件ある。時期、場所を問わず、献金勧誘などの行為にみられる共通の特徴などが数多く認定され、信者の活動の組織性・同一性などに加え、信者が献金勧誘などの行為にあたって使われるなどしていたマニュアルや文書で合致する内容の記載がみられた。 献金勧誘などの行為は少なくとも、昭和50年代後半から宣言の出された09年ごろまでの間、自身や親族に複雑な家庭環境、不幸な出来事、高齢などによる判断能力の制約などがあるなどの困難な事情を抱える者に対し、旧統一教会の教理を伝える過程で、深刻な問題の原因の多くは怨恨(えんこん)を持つ霊の因縁などによるもので、問題解消のためには献金などが必要だと繰り返し申し向けるなどして献金などをするよう勧誘。借財などで原資を捻出するなどして、本人や近親者らの生活の維持に重大な支障が生ずる献金などを繰り返し行わせるおそれがある状況が生じていたと認められる。 宣言が出された09年までの間の献金の支払いなどに関し、損害賠償を請求した168人の原告の大部分について不法行為があり、約17億8400万円に準ずる程度の損害が生じたと認められる。訴訟上の和解や裁判外の示談が成立した者の大部分は、同様の事実関係を具体的に指摘して献金勧誘などの行為について被害を訴えている。 (1)訴訟上の和解が成立した445人(09年以前の献金の支払いなどにかかる和解金の推計額の合計額約60億6600万円)と、(2)裁判外の示談が成立した921人(同年以前の献金の支払いなどにかかる示談金の推計額の合計額約116億1300万円)のうち、合計1366人に近い程度の人数について信者による献金勧誘などの行為について不法行為があり、合計176億7900万円に近い程度の損害が生じたと認められる。被害を受けた人数、被害額ともに、類例のない膨大な規模の被害が生じた。 宣言後の被害申告(訴訟提起などの件数)は減少傾向にある。だが、通常行われる調査や指導監督、法令順守違反に対する指導改善措置や制裁などが行われた形跡がうかがわれない。宣言以降、旧統一教会の組織体質や相当数の信者の行動の在り方を大きく変化させるような根本的な対策が講じられたとはいえない。 宣言後の被害申告が相当数あり、数は減少しているものの、途切れることなく続いている。問題状況は相当に根深く、宣言後にも直ちに大きく改善されることはなく、今もなお見過ごせない程度に残っているとみられる。宣言後も、179人(民事判決3人、訴訟上の和解9人、裁判外の示談167人の合計)とそれほど異ならない程度の人数について、信者による献金勧誘などの行為について不法行為があり、約9億8500万円(民事判決約1760万円、訴訟上の和解約5360万円、裁判外の示談約9億1300万円の合計)とそれほど異ならない程度の損害が生じたと認められる。 【解散命令の要件に該当するか】 法令に違反する行為は約40年間、全国的に行われ、総体として、類例のない膨大な規模の被害を生じさせた。不法行為に該当する献金勧誘などの行為の態様は総じて悪質だ。本人や近親者らの生活の維持に重大な支障が生じ、長期間にわたって深刻な影響を受けた者が相当数いる。結果も重大だ。献金勧誘などの行為は、個人の利益である財産権や生活の平穏などを侵害し、単に公共の福祉を害するだけでなく、総体として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」にあたるといえる。 【解散命令の当否】 宗教法人に関する解散命令は、信者の宗教上の行為自体を法的に制約する効果を伴わないが、支障を生じさせることがあり得ることや、憲法の保障する信教の自由の重要性に鑑みると、必要でやむを得ないといえることが必要だ。 旧統一教会は、その宗教活動の過程で生じた、信者によって行われた不法行為に該当する献金勧誘などの行為によって、類例のない甚大な被害を生じさせ、今も類似の被害を生じさせるおそれがある状況が残っている。旧統一教会に事態の改善を図ることを期待するのは困難というべきだ。 また、不法行為に該当する献金勧誘などの行為によって得られた献金収入などにつき、法人格を利用して収受管理し、宗教法人に与えられた税制上の優遇措置を受けている。旧統一教会に法人格を与えたままにしておくことは極めて不適切だ。解散によって法人格を失わせるほかに適当かつ有効な手段は想定しがたい。 旧統一教会は、信者による不法行為に該当する献金勧誘などの行為について、法令上許されないという司法判断を繰り返し受け、宣言後にも献金勧誘などの行為について多数の被害申告も受けるなどしていた。根本的な対策を講ずる契機や機会があったにもかかわらず、宣言以降も根本的な対策をせず、不十分な対応に終始している。解散命令は必要かつやむを得ない。旧統一教会を解散する。