社説:選挙への愚弄 与野党で歯止め深めよ

選挙の自由と公正を守るため、脱法的な愚弄(ぐろう)行為や現実とのズレを抑える法規制について、与野党で一層の議論を求めたい。 選挙と関係のないポスターの掲示を制限する公選法改正案が、きのう参院の特別委員会で可決された。月内に成立する見通しだ。 ただ、最近の選挙を巡っては交流サイト(SNS)で真偽不明の情報が広がり、結果に影響を与えるケースがみられる。他候補の当選を目的に立候補する「2馬力選挙」も、有権者を惑わす行為と言わざるを得ない。 政治活動や表現の自由を尊重するのは当然としても、不公平を放置すれば、選挙を土台とした民主主義への信任を揺るがす。現行法を駆使しても防げない事例には、一定の規制強化はやむを得まい。 与野党7党が提出した公選法改正案は、ポスターに候補者名の明記を義務付けた上、品位を損なう内容を禁じ、特定商品を宣伝した場合には罰金を科す。 昨夏の東京都知事選で、「NHKから国民を守る党」が選挙掲示板にポスターを貼る権利を事実上売り出し、性風俗店の広告などに利用された問題を踏まえた。 夏の東京都議選や参院選を控える中、改正の一歩として急いだ姿勢は理解できる。 NHK党の立花孝志党首は昨秋の兵庫県知事選に続き、先週まで行われた千葉県知事選でも現職支援を掲げて立候補した。 兵庫県知事選ではSNSに根拠不明の情報やデマ、新人候補への誹謗(ひぼう)中傷が流され、その中心に立花氏や日本維新の会の県議らがいたことが分かっている。 拡散の背景には、閲覧数に応じて発信者に収益が得られる仕組みがある。日銭稼ぎで候補者の動画を話題になるよう編集する「切り抜き職人」と呼ばれる人らも選挙を渡り歩く。「選挙のビジネス化」ともいえ、看過できない。 今回の改正案では、SNSや2馬力選挙への対応を念頭に「必要な措置を講じる」と付則に記すにとどめたが、専門家も交え多角的に歯止め策を検討すべきだ。 一方、立花氏は千葉県知事選中に東京・霞が関で男に切りつけられ、重傷を負った。殺人未遂容疑で逮捕された男は兵庫県議の自殺を巡る立花氏の言動に腹を立てたという。いかなる理由でも暴力に訴えることは許されない。 公選法についてはデジタル技術を踏まえ、投票機会の拡大や掲示板の電子化、政見放送の動画配信など抜本見直しも考えたい。

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