“適切な大人”って…?Netflixグローバル大ヒット「アドレセンス」がいま世界に投じる波紋

各エピソードが全編シームレスなワンカットという驚異の撮影手法で話題を呼ぶ、Netflixシリーズ「アドレセンス」に反響が相次いでいる。 3月13日より世界配信されるや最初の4日間で視聴回数2,430万回、2週目で6,630万回を達成しイギリス発のNetflixリミテッドシリーズとして新記録を更新して、グローバル1位(英語シリーズ)に。世界80か国で1位となり、日本でも「今日のTV番組」TOP10入りが続き、「現代社会の諸問題を煮詰めたよう」「全親、観た方がいい」「かなりゾッとした」といった声が挙がっている。 「アドレセンス」はその超絶技巧の撮影に何かと注目が集まりがちだが、もう1つ重要なのは、その手法だからこそ観る者が逃れられなくなる少年の動機の真実である。 「思春期」を意味する今作は、13歳のジェイミー・ミラー(オーウェン・クーパー)が同じ学校に通う少女の殺害容疑で逮捕されるところから始まる。彼の家族、心理療法士、担当刑事が事件の真実に迫っていくのだが…。 ※以下ネタバレを含む表現があります。ご注意ください。 早朝にいきなり銃を抱えた警官たちに突入され、取り乱す家族と驚きのあまり粗相をしてしまうジェイミー。泣きながら「僕はやってない」と繰り返し、父エディ(スティーヴン・グレアム)に、採血や指紋採取の際に付き添う“適切な大人”(Appropriate Adult/イギリスにおいて少年犯罪などの取り調べに立ち会い、容疑者の精神的サポートをする大人のこと)になってほしいと頼む。 その姿は、とてもとても少女を惨殺した凶悪犯とは思えない。 「この逮捕は間違いでは?」「少年は犯人ではないのでは?」と第1話で視聴者に思わせることは、突然の息子の逮捕に動揺する父エディ役も務めているスティーヴン・グレアムら製作陣の狙いだったとNetflixの公式ガイドサイト「TUDUM」に明かしている。 スティーヴン・グレアムといえば、ガイ・リッチー監督『スナッチ』やNetflix映画『アイリッシュマン』、「ボードウォーク・エンパイア 欲望の街」などで性格俳優として知られる。今作では、崖っぷちオーナーシェフの波乱な一夜の出来事を描いた英国アカデミー賞ノミネートの映画『ボイリング・ポイント/沸騰』(2021)で組んだ監督フィリップ・バランティーニ、撮影監督マシュー・ルイスと再タッグ。 製作・共同脚本も手掛け、ワンカット撮影で繫ぐ、リアルタイムに“いま起きていること”に没入できる全4話を作りあげた。製作にはブラッド・ピットのPLAN Bも携わっている。 警察が決定的な証拠を手にしても、「僕はやってない」「何も悪いことはしていない」と頑なに犯行を認めないジェイミー。第2話では、逮捕から3日目の中学校を舞台にルーク・バスコム刑事(アシュリー・ウォルターズ)とミーシャ・フランク刑事(フェイ・マーセイ)がジェイミーの親友たちや、被害者ケイティ(エミリア・ホリデー)の親友から事情を探っていく。 白眉なのは第3話だ。7か月後、収容訓練施設に送られたジェイミーと、裁判のための精神鑑定を行う心理療法士ブリオニー・アリストン(エリン・ドハーティ)との密室での対話が、圧巻のワンカットで展開する。 やがて明らかになる大人たちの誤解。ジェレミーとケイティとの本当の関係。引き金となったSNSでの投稿。その背景には、こういった事件が起きて顕在化する、インターネット上でがん細胞のように驚異的なスピードで極めて静かに増殖している「マノスフィア(manosphere)」、男性のほうがむしろ女性に虐げられているとする反フェミニズムやミソジニーがあることが分かってくる。 身体の変化の戸惑いのなかで劣等感や疎外感を抱え、日本語でいうところの“非モテ”扱いされた13歳の男子の内に、少しずつだが確実に、不気味なまでに育っていってしまったものだ。 聡明なジェイミーは逆にブリオニーを牽制しながら会話の主導権を握ろうとするも、ひとたび脆い鎧がはがれると「指図をするな!」と激高する。13歳の少年を前に固まりつくブリオニーの恐怖と衝撃は、ワンカット撮影であることも忘れさせる。 そして第4話、逮捕から13か月後。ミラー家では父エディの誕生日を希望を抱いて過ごそうとするが、コミュニティでの嫌がらせや悪意のある好奇についにエディが限界を迎えてしまう。そのキレ方が、第3話のジェレミーとあまりにもそっくりなのだ。 「俺のせいか?」「自分たちに何ができた?」と妻マンダ(クリスティン・トレマルコ)の前で涙を見せるエディ。前を向いて家の外に出ようとしたはずが、ジェイミーの思想を形成した立派なPCのある彼の部屋で物語は幕を閉じる。 もし人の親ならば、例えば子どもの学校で起こったSNSにまつわる出来事やトラブルなどを思い起こすことになるかもしれない。多かれ少なかれ何か“思い当たる節”があれば、そのとき親として適切だったのか、自問自答したり、誰かと話し合ったりしたくなるだろう。“適切な大人”とは何なのか、自分事として捉えずにはいられなくなるのだ。 スティーヴン・グレアムは実際にイギリスで起きた子ども死傷事件から今作を思いついたそうだ。「すでに学校で『アドレセンス』を上映するよう求められています」と、彼のパートナーで共同製作者のハンナ・ウォルターズは明かしている。Varietyに語ったところによれば、多くの若者から「自分が対処する方法がわからなかったことについて両親に話せるようにしてくれてありがとう」といった声も届いているという。 彼らが現代社会に投げた小石は大きな波紋を呼び、国を超えて伝播している。手遅れになる前にいまこそ、それを語り合うときなのかもしれない。 語りたくなるといえば、鮮烈な演技デビューを飾ったジェレミー役の超新星オーウェン・クーパーの存在もそうだ。次回作はマーゴット・ロビーとジェイコブ・エロルディ共演、『プロミシング・ヤング・ウーマン』エメラルド・フェネル監督による『嵐が丘』で若きヒースクリフ役を演じるという。彼の末恐ろしい将来には期待しかない。 Netflixシリーズ「アドレセンス」は配信中(全4話)。

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