《高野いないと生きていけない》 《うれしいよ》《オレも愛里なしじゃ生きていけない》 《あいりのために》《いつもありがと》《だいすき》 《うん当然》 このLINEのやり取りから約3年4ヵ月後、男はサバイバルナイフで「なしじゃ生きていけない」ほど好きだった女性を殺害したのだった。 ライブ配信サービス『ふわっち』で「最上あい」名義で活躍していた佐藤愛里さん(22)が、動画配信中に殺害されてから1ヵ月が経った。 「3月11日午前9時55分ごろ、東京・JR高田馬場駅近くの路上で佐藤さんをサバイバルナイフで複数回刺したとして、警視庁は高野健一容疑者(42)を殺人未遂の現行犯で逮捕しました。佐藤さんの上半身には30ヵ所以上の刺し傷があり、首の刺し傷が致命傷になったということです。 2人の間には金銭トラブルがあり、恨みをつのらせた高野容疑者が佐藤さんを何回も刺したとみられています」(全国紙社会部記者) ◆裁判沙汰になった「金銭トラブル」 2人の間にあった金銭トラブルとは、’22年9月から同年11月までの間、高野容疑者が13回にわたって貸した合計254万4800円が3万円しか返済されなかったことを指す。裁判資料をもとに2人の間に何があったのかを振り返りたい。 高野容疑者が佐藤さんに対し、「貸金等返還請求事件」の訴えを起こしたのは’23年8月1日。訴状などによると、’21年12月に『ふわっち』の視聴者だった高野容疑者は佐藤さんの存在を知ったという。その後、高野容疑者が連絡したことから携帯番号を交換し、連絡を取り合うことになった。その後、高野容疑者は佐藤さんが働く山形市内のキャバクラを訪れ、そこで顔を合わせている。 《私は、連絡を取り合う佐藤さんから誘われて、令和4(’22)年8月25日ごろ、佐藤さんの勤務先まで新幹線を利用して、はじめてその勤務先キャバクラ店を客として訪問しました。佐藤さんは、キャバクラ嬢として私に対応しました。 私は、その後も、新幹線に乗って、令和4年9月に2回、翌10月に1回、佐藤さんが勤務する(店名)に客として訪問して、佐藤さんと面談しました》(’23年11月20日の陳述書より) 直接顔を合わせた後から、佐藤さんは高野容疑者に《お金を貸してほしい》と言ってくるようになった。 ◆「財布を忘れた」と言われて4万円を貸したのが最初 《被告は、原告との上記面談後、原告に対して、財布を忘れた、生活費が足りない、家出をしていてアパートを借りる費用がない、体調が悪く働けないなどとして、すぐに返済する旨述べて金銭の借用を申し入れてきた》(’23年8月1日の訴状より) ’22年9月3日、《日雇いバイトに行った先に財布を忘れて手持ちがない》という佐藤さんに、4万円を貸したのがはじまりだったという。その後、1回につき2~50万円を貸し続け、’22年11月6日から7日にかけて95万円を貸したのが最後になった。 《11月6日佐藤さんから、具合が悪くて吐血もして仕事を辞めてやり直したい、50万円以上を一括で支払ってやり直したい、住む場所を借りて新しくやり直す、佐藤さんが保証人になるので、私が借り入れをして貸してほしいと連絡してきました。 (中略)私は、自分で貸金業者2社から現金を50万円ずつ借り入れて、95万円を貸すことにしました。11月6日は50万円を送金して、翌日に残り45万円を送金しました》(陳述書より) 冒頭のLINEは、証拠として提出された膨大なLINEのやり取りのなかで、高野容疑者が消費者金融の審査を待っている間に交わされたものだ。そして振り込みを終えた高野容疑者と佐藤さんは、このようなやり取りをしている。 《確認できたら教えてなー》 《でけた》 《よかった!》《返済大変かもだけど頑張っていこうね》 《うん!》 その3日後の11月10日にも佐藤さんから《50万、貸してほしい》と連絡がきたが、所持金がなく、これまで返済がないことから断ったという。この裁判は、佐藤さんが口頭弁論期日に出頭しなかったことから、’23年12月19日に《251万4800円を支払え》と判決が出ている。 陳述書のなかで高野容疑者は自身の心情をこう述べていた。 《私は、佐藤さんとの関係を進展させたいという思いを抱いて、困っている佐藤さんを助けたいという思いから佐藤さんから要求されるまま現金を貸していました。しかし、佐藤さんは、3万円を1回返済しただけで、その後は全く返済しません。それどころか、佐藤さんは行方知れずになるなどしてしまい、佐藤さんにだまされたような気分です》 証拠として提出された高野容疑者の銀行口座の預金額を見ると、’22年4月に約400万円あった預金が、その年の12月には約6万円になっていた。 ◆判決は効力があったのか 金銭トラブルから配信活動をいったんは休止した佐藤さんだが、’24年2月から再開。それを知った高野容疑者はこう供述している。 「借金を返済しない佐藤さんが配信をして稼いでいくことにやりきれない気持ちになった」 裁判まで起こしてもお金を返してもらうことができなかった高野容疑者。「全額を支払え」という判決はどれくらいの効力があったのだろうか。アトム法律事務所の松井浩一郎弁護士が解説する。 「判決は、相手の財産を差し押さえる権利を得られるという効力しかなく、判決が出ただけで、誰かが財産を特定して回収してくれるわけではありません」 「おカネも財産もない」と言い張る相手に対してはもうどうにもできないのだろうか。松井弁護士が続ける。 「日本だと自力救済といって、例えば暴力を使ってお金を回収することはできません。それをやると、逆に自分が犯罪者になってしまいます。 ですから、元も子もないかもしれませんが、返す見込みがない人には貸さない、貸すのであれば、質権など、何かしら担保をつけるということを徹底することです。もちろん借りる側がしっかり返すというのは当然ですが、やはり貸す側もその辺のリスクを考えて行動しないと痛い目に遭うということです」 「金の切れ目は縁の切れ目」そのままに、佐藤さんの関心を得ようと大金をつぎ込んだものの、好意を得ることはできず、連絡も取れなくなった。そして貸したお金も返ってこなくなり、凶行へと突き進んでしまった高野容疑者。 いま反省しているとしたら、言われるがまま無計画に大金を貸したことだろうか、それとも二回りも下の若い女性相手に金銭との対価として、何か別の思惑を持ったことだろうか。 取材・文:中平良