大河ドラマ『べらぼう』と吉原及び現代の女性差別 田中優子[江戸文化研究者]

――NHK大河ドラマ『べらぼう』を機に、吉原や江戸文化についての関心が高まっているようです。田中さんの『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』(文春新書)も売れているようですが、まず『べらぼう』についてどういう感想をお持ちでしょうか。 田中 吉原は、きれいに表現し過ぎると批判されやすいです。その点、『べらぼう』はその過酷さを、非常にリアルに表現していますね。女性が借金のカタになると、どういう結果をもたらすか、第1回目からはっきりとあからさまに描いています。その点では非常に良かったと思います。 ――女郎が衰弱死した遺体のシーンがSNSで議論になってましたね。大河ドラマは時代考証もきちんとなされていると思いますが、その点についてはいかがでしょうか。 田中 吉原のお店の位置関係などもきっちり描かれています。例えば蔦屋という店は五十間坂にあるので大門の外なんですが、大門の内側に駿河屋という茶屋があって、蔦屋重三郎はみなし子だったのを、そこで引き取られたという設定になっているんですね。大きな茶屋がずらっと仲之町通りに並んでいるんですが、そういう位置関係もはっきり描かれています。ただ実際には駿河屋じゃなくてあそこも蔦屋だったんです。蔦屋という店に引き取られたので蔦屋重三郎という名前になるわけです。 それから、街の作り方ですよね。吉原の街をどういうふうに作るかというのはすごく大きな問題だったと思うんですが、それをきちんとやっています。例えば吉原は周りにお堀があって、その堀沿いのところに河岸見世という安い店が並んでいるんです。そこの女郎たちがどんな着物を着ているかとか、正確に描いています。 衣装デザインは伊藤佐智子さんという方です。私とは同じ中学高校で同じ学年でした。展覧会カタログで一緒に仕事をしましたし、対談もしています。伊藤さんの衣装デザインがとてもいいですね。江戸時代の場合、あまり忠実にやると汚くなるんです。手染め、手織りですから、今の布よりも遥かに染織のレベルが高い。でも皆さん、古着屋で調達しますので、そんなに新しいものを着ているわけじゃない。しかも繊細な作りなのに、酷使します。 ですから、あまりリアルに描くと汚くなるんですが、そこを例えば、大(おお)籬(まがき)(大きな妓楼(ぎろう))の高級遊女が着ているものと、河岸見世の下級遊女が着ているものをちゃんと区別して着せてます。 男たちの着物も、あまり派手にするとおかしいんです。当時は黒とか紺とか茶色が男性にとっての粋な色とされていました。それについても、ちゃんと、汚くならない程度に暗くならないようにしています。街の作り方とか衣装、言葉遣いも、できるだけ忠実にやっていますね。 ただ、まだ(2月上旬現在)出てきてないなと思うことが2つあって、一つは大籬の遊女たちは茶の湯とか和歌、俳諧、書道、香道や生花の修行をしているし、実際にお客様の前でお手前をしたりするんですけれど、そういう場面がない。つまり日本文化、江戸時代の伝統文化の場面がほとんどありません。それは事実とは違うので気になるところです。 あと、平賀源内は出てくるけれど、それ以外の作家、恋川春町などの作家が出てこない。これからかもしれませんけれど、ちょっと出なさすぎる、そのあたりは気になるところですね。

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