男性教諭はなぜ調査書を改竄したのか 京都の名門高校
産経新聞 2011年11月13日(日)22時18分配信
【衝撃事件の核心】
国公立大学や有名私立大学に毎年多くの合格者を出している京都府福知山市の京都共栄学園高校。その名門私立高で3年生を担任する男性教諭(58)が、受験先や就職先に提出する調査書の評価を高く改竄(かいざん)するという“前代未聞”の不祥事が起こった。なかには出願基準を満たしていなかった調査書の評価を高くして、不正に出願した事例もあったという。何がベテラン男性教諭をそこまでさせたのだろうか。
■名門校に衝撃
「思いもよらない事態が起きた。教育の根幹を揺るがす不正行為をしたということで、非常に申し訳なく思っている」
10月25日に開かれた記者会見で、泉良正校長は苦渋の表情で頭を下げた。同校の進学コース3年生のクラスを担任する男性教諭が、調査書を作成する際に不正に高く改竄していたのだ。
発覚したのは、10月中旬ごろに生徒の間でささやかれていた一つの噂がきっかけだった。「クラスで(男性教諭に)成績を上げてもらった子がいる」。噂を聞いた学年担任の教諭が調査したところ、男性教諭のクラスの32人中24人の調査書に改竄があったことが判明した。
なかには、進路指導の際に男性教諭の方から、「このままの成績では希望する大学に行けないが、何とかできるかもしれない」などと言われた生徒もいたという。
同校によると、男性教諭は「クラスの成績を上げたかった。いい大学に早く合格を取り、自分も楽になりたかった」と動機を述べているという。
改竄されていない生徒もいるが、「これ以上成績に改竄する必要がなかっただけで、特定の生徒に便宜を図る意図はなかった」とも話しているという。
同校は副校長と教頭ら4人からなる調査委員会を学内に設置し、他のクラスや過去に作成された調査書についても調査したが、他の改竄はなかったという。
■担任の裁量次第?
同校の調査書は、教科の担当教諭が教科ごとに10段階で評価した成績原簿をもとに作成される。調査書には、クラス担任がそれぞれの教科の3年間の成績を平均し、10段階から5段階に換算した評定の値が記入され、この値が大学受験や就職試験の際の出願基準として考慮されることが多い。
今回の改竄は、男性教諭が調査書に各教科の成績そのものを記入する際に実行され、この成績をもとに出される調査書の評定を上げていた。
改竄の度合いは生徒によって異なるが、最大で6科目11教科にわたり、評定の平均が0・4上がっているケースもあった。また、出願基準に満たない成績だったにもかかわらず、0・2〜0・3上げて、不正に出願したケースもあったという。
調査書作成後に第三者が成績原簿と照らし合わせることはなく、泉校長は「チェック態勢が不十分だった」と述べた。
これを受け、2学期の期末考査から成績入力を複数の教諭がチェックするシステムを導入するなど、チェック態勢の見直しを検討している。
■進学校ゆえのプレッシャー
「進学コースの担任になるのは初めてだったので、プレッシャーを感じていた」。問題発覚後、男性教諭は学校側の調査に対し、こう打ち明けたという。
男性教諭は同校で30年以上勤務しているベテラン教師。だが、これまでは、多くの生徒が就職か専門学校などへ進む普通コースを担当しており、今年度になって初めて近隣の有名私大を目指す進学コースを担任した。
同校では、進学実績で特にノルマを課してはいなかったというが、職員室内では教諭の間で、「クラスの模擬試験の成績はどうでしたか」「できのいいクラスなので、生徒の進路が楽しみですね」などという会話が交わされ、男性教諭が重圧を感じていたようだという。
清水智徳教頭は男性教諭について「仕事にはきちんと取り組み、生徒に尽くすタイプ」とコメントしている。
1年生の女子生徒も「日ごろから授業を優しく教えてくれる先生」と評価。ただ、「それだけに、こんなことをしていたのを知ったときは、悲しくて残念な部分もあります」と続け、肩を落とした。
男性教諭は発覚後、クラス担任から外された。今後、学園本部が処分を検討するという。
■広がる動揺
発覚から4日後、同校は保護者らに対して事件の説明会を開いた。18人が出席し、「子供の進路は大丈夫か」「今は子供の入試の合否の結果待ちだが、影響はないのか」など進学先への影響を心配する声が上がった。
同校は調査書を提出した大学や企業に出向いて謝罪と説明を行ったが、改竄前の調査書の評定が出願基準を満たしていなかった生徒の出願は取り下げた。さらに、改竄された調査書を作り直し、成績原簿をもとに正しく作成された調査書を提出しているという。
だが、今回の不祥事による生徒らへの影響を心配する声もある。
2年生の男子生徒は「来年自分が受験するときに、あまりよく受け止められなかったり、変な見方をされるのではないかと心配です」と話す。
また、卒業生の女性(25)は「こんなことがあっては、自分の出身校だと言えなくなる。ちゃんとしている人がいっぱいいるのでくやしい」と憤りをあらわにしている。
京都府文教課では「出されている調査書が信用できないという事態になると、生徒に関わる。本来あってはならないことで、非常に驚いている。生徒には不利益にならないよう対応していきたい」とコメントしている。