死者多発の柔道…中学必修化は大丈夫か?
夕刊フジ 2012年1月24日(火)16時56分配信
中学1〜2年の保健体育で4月から武道が必修化され、その科目に柔道が加わることが波紋を広げている。授業や部活動での練習中、生徒が事故に遭うケースが後を絶たず、野球やバスケットボールなど他のスポーツに比べて死亡確率も突出するからだ。指導する教師が危険防止を徹底できるのか。保護者ら関係者の不安は収まらない。
名古屋市の市立高校で柔道部に所属する1年生=当時15歳=が昨年6月、部の練習中に頭を打ち、急性硬膜下血腫で死亡していたことが先週、判明した。市教育委員会では顧問の40代男性教諭の指導方法に問題はなかったと説明するが、柔道経験は少なかったという。
名古屋大の内田良准教授(教育社会学)がまとめた柔道事故の調査では、1983〜2010年度の28年間で114人の中高生が死亡し、後遺症が出る重篤な事故は83〜09年度で275件にのぼる。
10万人あたりの死亡確率(部活動・中学のみ)を見ると、バスケットボールが約0・4人、野球とサッカーが約0・3人に対し、柔道は約2・4人。多くは、頭から落ちて強打するなど指導する側の危険防止が徹底されていないことが一因だった。
内田氏は「事故の焦点は生徒の『頭部損傷』に尽き、これに対する指導者の認識と知識が甘いことから、多くの犠牲者が出ている。柔道連盟の努力などで指導現場の環境も改善されつつあるが、十分な知識や対応策を理解していない教師は多い」と問題視する。
副会長で、柔道事故で親族を亡くした一人でもある村川義弘氏(50)は「いまの教育現場では、数日間の研修しか受けていない柔道未経験の体育教師が、年間10時限の授業で受け身から投げ技、乱取りまで生徒に教えていいことになっている」と指摘。「10時間といえば、民間の道場なら受け身を覚えさせるのが精いっぱい。明確な安全基準が統一されないまま必修化が見切り発車する」と危機感を抱く。
「スポーツによる健康な国づくり」などを政策に掲げるシドニー、アテネ五輪女子柔道金メダリストの谷亮子参院議員(36)も「武道である以上、予期せぬ事故やけがが想定される。不測の事態の回避は、学校や指導者の責任や役割分担を決めた環境づくりが基本。生徒や保護者が安心して柔道の授業を受けられる土台作りを働きかけていきたい」と注視する。
文部科学省では気力、礼儀、公正など武道としての特性を教育に生かすのが必修化のねらいとするが、指導する教師の技術も高められるかどうかは不透明だ。
■部活動や体育の柔道による中学、高校の死亡事例114件の分析