高圧電線だらけの中、痴漢講師は地下鉄線路を走って逃げた

高圧電線だらけの中、痴漢講師は地下鉄線路を走って逃げた
産経新聞 2012年7月1日(日)20時58分配信

【衝撃事件の核心】

 ドラマを思わせるような逃走劇が、大阪市営地下鉄御堂筋線のトンネルで繰り広げられた。6月6日、大学の非常勤講師だった男(34)=解職=が、大阪府迷惑防止条例違反容疑で府警に逮捕された事件。男は痴漢がばれると、とっさに線路に飛び降り、地下鉄のトンネル内を1キロも走って逃げた。駅職員もトンネル内を追走し、御堂筋線は10分間にわたりストップした。いつ電車が迫ってくるかわからない危険な空間。しかも途中に出口もなく、逃げ切れるわけもない。男は逮捕後「逃げることに必死だった。無我夢中で…」と、しょんぼりした様子で話したという。

 ■「どこ行くねん!」

 「体を触ったでしょ! 次の駅で降りてください」

 6日午後10時40分ごろ、淀屋橋駅から本町駅に向かう下りの御堂筋線の電車内。ドアの近くに立っていた20代の女性が、自分の下半身を触る男に怒りを向けた。

 当時車内は、梅田駅や淀屋橋駅で帰宅する会社員ら多くの乗客を乗せ、身動きがとれないほど込み合った状態で、女性に問い詰められた男は「知りません」などと否定した。

 しかし、ほかの乗客らがただならぬ2人の様子に気づき、ざわつき始めた。

 「とにかく降りてください」。電車が本町駅に到着すると、男は女性や事情を知った乗客らに促されて下車した。

 おとなしく駅職員に引き渡されるだろう−。

 誰もがそう思っていた。ところが男は突然走り出し、電車が到着した下り線から、ホームを横切って反対側の上り線路に飛び降りた。

 「どこ行くねん!」「捕まえろ」

 大勢の乗客らの目前で、男は約150メートルの本町駅ホーム下の線路を疾走。猛然と淀屋橋駅に向かうトンネルに駆け込んだ。ホームにいた職員が騒ぎに気付き、上り線の非常停止ボタンを押す。そして、そのまま男を追走。駅長室から駆け付けた職員も合わせ、5人が男を追跡した。

 ■感電死の恐れの中、逃走

 大阪市交通局によると、トンネルの造りは昭和8年の開通当時のまま。安全運行できるように約10メートル間隔で照明が設置されているが、当然薄暗い。

 さらに、線路上には直流750ボルトの高圧電線が設置されていて、触れてしまうと感電死する恐れもある。もちろん、男の前後からは、いつ電車が迫ってくるか分からない。

 そんな危険を冒してまでの逃避行だが、トンネルの途中に逃げおおせる出口はない。本町駅から1キロ先にある淀屋橋駅では、連絡を受けた職員が線路上で進路をふさぎ、男を待ち構えた。

 淀屋橋駅の手前30メートル付近で、暗がりにぼんやりと男の姿が現れた。待ち構えた職員と追跡してきた職員が挟み撃ちし、男は観念した様子で取り押さえられた。約10分間に及んだ捕物劇の終幕は、あっけなかった。

 ■「逃げるのに必死で」

 「危険やないか! みんなに迷惑がかかる!」

 取り押さえられた男は、駅職員らに大目玉を食らっていた。危険なことだけでなく、トンネルを逃走したせいで上下線の電車がストップし、乗客ら約7千人に影響が出たからだ。

 この時点で、職員らは男が痴漢をしていたことを知らなかったという。市交通局も「酔った乗客が線路上に立ち入ることはあるが、痴漢がばれて線路上を走って逃げたというのは聞いたことがない」と話す。

 その後、110番で大阪府警東署員が淀屋橋駅に駆けつけ、府迷惑防止条例違反(痴漢)容疑で現行犯逮捕した。男は調べに対し、「間違いない」と容疑を認め、「警察に連れて行かれるのが怖くなり、飛び降りて逃げました」と供述したという。

 警察に捕まりたくない一心でのとっさの行為とはいえ、電車が接近していたらどうなるか、一切考えなかったのだろうか。男はこうも供述した。

 「無我夢中で逃げた。逃げることに必死だった」

 ■計画的?身軽さ

 その後、「魔が差した痴漢」とは思えない状況も判明した。

 府警によると、男は逮捕時、携帯電話や財布のほか、免許証やクレジットカードなど身分を証明できるものを一切持っていなかった。市営地下鉄の、とある駅構内のコインロッカーに入れていたという。

 ある捜査関係者は「所持品をロッカーに預けて電車に乗るなんて不自然すぎる。『たまたまムラムラした』という状況ではなく、最初から痴漢目的で乗車していたのではないか」とみている。

 さらに、男は27日、府迷惑防止条例違反罪で略式起訴されたが、起訴内容は今回の痴漢だけではなく、今年2月10日と5月7日の件も加わっていた。2件とも夜の御堂筋線の電車内で、ズボンのポケットに手を入れ、ズボン越しにそれぞれ女性2人の体を触ったとされるものだった。

 ■金曜夜に多発傾向

 電車内の痴漢は、相も変わらず発生している。

 大阪府警が平成23年の1年間に認知した電車内での痴漢件数は、260件。これを鉄道会社別の割合でみると、JR西日本40%▽大阪市営地下鉄18%▽阪急12%−だった。

 市交通局によると、23年の市営地下鉄全体の輸送人員は296万人。そのうち御堂筋線は116万人と約4割を占め、まさに大阪の大動脈だ。通勤ラッシュ時の混雑も苛烈で、午前7〜8時台の梅田発の下り線は、最高で145%の乗車率を記録している。

 混雑する分、御堂筋線での痴漢はほかの路線に比べて多発しており、市交通局の調べでは、23年は市営地下鉄の約6割を占める81件の被害申告があった。捜査関係者によると、同線では特に、月曜の朝と金曜の夜に被害が多い傾向があるという。

 今回の事件は女性が勇敢にも声を上げ、逮捕につながった。しかし、被害に遭った女性が届け出ていないケースも少なくなく、実際の痴漢被害の件数はもっと多いとみられる。

 男が勤務していた大学関係者は逮捕後、「学生からの苦情もなく、勤務態度もまじめだったので非常に驚いている」と話した。しかし、犯行は女性に対する卑劣な行為。大学は事件の翌日付で男を解職した。

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