いじめ、国の対応は「現場任せ」…悲劇繰り返す

いじめ、国の対応は「現場任せ」…悲劇繰り返す
産経新聞 2012年7月21日(土)10時22分配信

 「一番大事なことは二度と起こさないということ。子供の命を守るため、この案件を氷山の一角だというくらいの強い認識の下に、しっかりと対応する」。平野博文文部科学相は17日の会見でこう述べ、いじめを受けていた大津市立中学2年の男子生徒=当時(13)=が自殺した問題に並々ならぬ決意を示した。

 しかし、いじめで自殺した子供の遺族らでつくるNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)の理事、小森美登里さん(55)は「文科省は本当に子供の命を守ろうと思っているのか」と冷めた目で見る。学校現場でのいじめを苦にした自殺は、過去に何度も社会問題となり、そのたびに、いじめの定義や調査方法を見直したり、通知を出したりしてきた。だが文科省の対策はいつも後手後手に回ってきたからだ。

 ◆件数にとらわれ

 いじめ調査が始まったのは昭和60年度。全国で約15万件のいじめが報告されたが、「葬式ごっこ」をされた東京都中野区の中2男子の自殺が社会問題となり、「いじめ撲滅」の機運が高まった結果、61年度には激減した。

 平成6年には愛知県西尾市の中2男子が自殺。当時の文部省は、いじめの定義を見直し、「事実を確認されているもの」という表現を削除し、「いじめられた子供の立場から見る」とした。18年には北海道滝川市の小6女児が自殺したのを機に、「発生件数」ではなく「認知件数」に変更。文科省が件数の多寡にとらわれていることが学校現場の隠蔽(いんぺい)体質につながっているとの批判を受けたためだ。

 だが、こうした“事後対応”では問題の根本的な解決にはつながらない。

 スクールカウンセラーの派遣や24時間いじめ相談ダイヤルの設置のほか、いじめの早期発見、早期対応などを求める通知も数多く出しているが、悲劇は繰り返される。小森さんは「文科省は現場の教育委員会の自主的な運営に任せ、現場教師の意識の問題とのスタンスを貫いており、責任を認めていない」と批判し、こう続けた。「教育委員会と学校の体質を強制的に改善しない限り、変わらない」

 文科省幹部は「これまでの施策に不備や欠陥がないかを含めて対策を検討していく」と話す。再発防止策構築の手だてとして、職員を大津市に派遣、20日には奥村展三(てんぞう)副大臣も現地入りしたが、いまだに情報収集の段階だ。

 警察と連携し捜査結果から有効な情報を得ようとしているが、受け止め方には温度差がある。

 警察庁幹部は「違法行為があれば、必要な対処をする。特に被害者の少年の生命、身体の安全が脅かされるような重大事案については捜査すべきだ」とする一方、別の幹部は「滋賀県警の捜査の目的は暴行容疑などの立件で、いじめに対する対応は学校や教育現場に任せるべきだ」と話す。

 抜本的ないじめ対策が求められる。

 ◆「子供に恥教えよ」

 いじめによる被害を受けた子供の保護者らでつくるNPO法人「全国いじめ被害者の会」(大分県佐伯市)理事長の大沢秀明さん(68)は「いじめ自殺がなかった時代は、教師が生徒を起立させて叱っていた。文科省は小手先の対策ではなく、かつての学校現場を取り戻さなければならない」と語る。

 「銀河鉄道999」「宇宙戦艦ヤマト」などの作者として知られる人気漫画家、松本零士さん(74)はこう指摘した。「弱い者をいじめるということは、世の中でもっとも恥ずべき行為だということを、教師が子供たちに徹底して教えることに尽きる」

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