規模デカすぎる“討ち入り!?” 農業トラクター1400台が首都に集結、どうやって実現? 英国らしい「百姓一揆」の舞台裏

「令和の百姓一揆」。そんなキャッチフレーズを掲げ、日本全国の農家の有志が2025年3月30日に東京でデモを予定しています。令和の一揆らしく、クラウドファンディングで得た資金をもとに、全国からトラクターが30台ほど集結し、農家の窮状を訴えるといいます。 こうしたトラクターでのデモは、数年前から欧州各地でも広がっています。筆者(赤川薫:アーティスト・鉄道ジャーナリスト)の住むロンドンでも繰り返されていて、2月10日には英国全土からトラクター1400台に、なぜか戦車までが集結する史上最大規模となりました。 国会議事堂や首相官邸(ダウニング10番地)などの政府機関が密集する官庁街にトラクターがずらりと並び、13時から17時まで占拠。その後、トラクターの車列が市中心部を走り回り、観光名所としても有名な高級デパート・ハロッズの前を、クラクションを高らかに鳴らしながら通るという珍しい光景が見られました。 想像をはるかに超える大規模なデモを主導した農業団体「セーブ・ブリティッシュ・ファーミング(Save British Farming)」の代表者、リズ・ウェブスター氏に舞台裏を聞いたところ、農家に不利な税制改革が引き金だと明かしました。 これまで農業関連資産の相続は完全に非課税だったのが、2026年4月から、農家の富裕層の相続には課税することになりました。これは、2024年7月に14年ぶりの政権奪取を実現した労働党の肝いり改革の一つです。労働党が貧富の格差是正を掲げているという背景もあります。 労働党にとっては、非課税であることに目をつけて農地に投資している富裕層だけを狙った改革のつもりでした。つまり、中世から続く封建制度のような階級社会にメスを入れるのが目的です。しかし、ここに誤算がありました。 そもそも英国の農家は伝統的にライバル政党である保守党の支持者が多く、改革を望んでいないうえ、富裕層はすでに財産の大半を租税回避地に移してあって英国内に残っている農地に課税しても大して意味がないという現状や、そうした富裕層が相続税を回避するために大規模農場を手放せば、そこで雇われている農業従事者が解雇されるだけだ、という問題が一気に噴き出したようです。 では、こうした大規模デモはどうやって企画されたのでしょうか。 前出のウェブスター氏によると、1400台のトラクターをロンドンに集結させるだけでも大変な困難を伴ったといいます。2月10日の午後に市中心部へ一斉になだれ込んでトラクターを並べるために、まずは前日夜までに大半のトラクターをロンドン郊外に集結させる必要があるからです。 さながら、「討ち入り」とも呼びたくなる、トラクターによる首都圏「囲い込み」の実現に協力したのは、ロンドン郊外の農家たちでした。 ロンドンから350kmほど離れた南西のデボン州や、サマーセット州、北西のウスターシャー州から一般道を走ってきたトラクターの数々や、ローローダーに数台ずつ積んで運ばれてくるトラクターをロンドン郊外の農地に受け入れ、農家がトラクターやトラックのキャビン、キャンピングカーなどで夜を越す手助けをしたのです。

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