殴り続けた監督、現役Jリーガーも加害者の一人。暴力が横行する高校サッカーの部活動
フットボールチャンネル 2014年1月1日(水)18時34分配信
疑問だらけの部活生活
体罰やしごきが社会問題になりながらも、未だに一部のサッカー強豪校や伝統校では、行き過ぎた指導が行われている。なぜ理不尽な指導はなくならないのか? このほど出版された加部究著『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(カンゼン)の中でその実態が明らかにされている。
■疑問だらけの部活生活
BはJクラブのジュニアユースで、3年間レギュラーとしてプレーをして来た。ユースへの昇格は逃したが、それならやはり全国高校選手権を目指そうと、希望を抱いて強豪高校へと進学した。
だが実際に強豪校の練習に参加してみて疑問が沸いた。中学時代は濃密で合理性の高いトレーニングを積み重ねて来た。新しい戦術理論も教わり、サッカーの奥深さも知って、心から楽しむことができた。
ところが強豪校では「これ、意味があるのかな?」と首を傾げるようなメニューが延々と続けられる。例えば、守備側のマークする相手もつけずに、4人でパスを回してゴールに蹴り込む…など、ひたすら単純な作業が繰り返された。
春合宿が始まると、さらに疑問は膨らんだ。
夕食中に誰かが無断でトイレに立つ、食べ残しがある、床にご飯粒が落ちている…、などと指導者が些細な規律違反を探しては、連帯責任として翌朝罰走を強いるのだ。
罰走に限らず、全てのインターバルトレーニングは、全員が一定タイム以内に入るノルマを課すので、1人でも遅れれば果てしなく続いた。
さらに夜になれば、3年生が気分次第で暴力を繰り返す。やがてBは別のJアカデミー出身の友だちと「もう辞めて別の学校に編入しよう」と話すようになり、遂に夏合宿を経て気持ちが切れた。
1年生担当のコーチに話すと何度かは止められたが、気持ちは変わらなかった。担任、学年主任、生活指導の教員とも話をしたが「またか…」という投げやりな空気しか伝わってこない。サッカー部員が毎年4〜5人退部していくのは恒例化していた。
下級生を暴行していた“王様”は現在Jリーガー
1学年上にはBと同じJクラブ出身の先輩もいたが、上級生にいじめ抜かれて退学している。中学時代に国立競技場でプレーをした経験のある先輩は、客観的に同学年では並外れた技術水準を備えていた。
ところが逆にエリートコースを歩んで来た経歴が、手をつけられない暴行を続ける王様気分の上級生を刺激した。校内で“王様”には誰も口出しができず、監督も指示を出す時は他の選手を迂回した。
ちなみに“王様”は現役Jリーガーである。
Bがそんな惨状を知ったのは、既に進路を決めた後だった。
「先輩は僕よりずっと酷い目にあっていたそうです。上級生と同じ屋根の下で寮生活だったので、まったく逃げ場がありませんからね」
退部して「サッカーは、もういいや…」と思った。
「フットボールチャンネル」でアンケートを募ると、Bの10年ほど先輩に当たるCからも回答が届いた。
両者の時代で監督は異なるが、どうやら部内の体質に変化はない。
「高校生の頃からサッカー雑誌を読むのが好きでした。海外の選手のインタビューを読むと、サッカーは楽しむもの、というフレーズが出てきます。でも高校では1日たりとも楽しいと感じたことがありません。自由な発想を表現できたこともないし、部活はつまらない、サッカーはきついものと刻み込まれた感じです」
Cが受けた仕打ちは、陰湿ないじめそのものだ。
「入学してから約1ヶ月間は、新入生を追い込むために“しぼり”が行われます。指導者がきついメニューを課すだけでなく、上級生や同級生を使って、ついて来られない子を脅させるなどで精神的にも追い込むわけです。僕は同じクラスの仲の良かったヤツにまで追い込まれ、すっかり人間不信に陥りました」
結局Cも1年時に部活を辞めた。
ピッチを往復して選手を殴り続けた“名将”
同校の監督が築いた体制は、完全に軍隊そのものだった。
語り草になっている光景がある。監督が生徒を叱ることになった。ゴールライン上から怒声を伴って殴り始め、反対のゴールラインに到達する。
「痛えな、また、オレかよ…。早く終わってくれないかな」
殴られる側は、感情を殺してひたすら耐え続けていたそうである。だがそれが監督には、反省の色がないと映ったのかもしれない。ピッチの縦方向(国際基準では105m)を歩いて殴り続けた監督は、さらにUターンしても殴り続けるのだ。
「なんだ、まだ終わらないのか…」
監督は「分かっているのか!」と、顔を真っ赤にして怒鳴り拳を振り降ろし続けていたが、もはや殴られる側には痛み以外に何も響いて来なかったという。
さて、昨日アップした記事と当記事は、全て全国高校選手権優勝経験を持つ名門校での出来事だ。
名門校だから優秀な選手たちも輩出してきたが、反面その後の人生までも狂わされた被害者が無数に、しかも確実に存在する。活躍した選手たちにはマイクが向けられてきた。しかし好きなサッカーを続けられなくなってしまった犠牲者の声は誰も拾って来なかった。
また逆にこうした「指導」とは言いがたい「訓練」によって生き残った選手たちが、本当に質の高い選手だったのかという疑問も残る。休養もない長時間の酷使に耐えられるのは、プレーの質というより、フィジカルの持久力に優れた選手たちということになる。
実際多くの強豪校では、中学時代に大きな可能性を示したタレントを平気で切り捨ててきてしまったのである。