教師自賛…台湾修学旅行のNHK番組事前学習のすごい中身とは?
産経新聞 2013年12月31日(火)10時39分配信
差別的な表現で台湾の先住民の名誉を傷つけたとして2審東京高裁判決でNHKが敗訴(上告中)した番組を、埼玉県立朝霞高校の生徒が台湾への修学旅行の事前学習として視聴していた問題。産経新聞さいたま総局は12月のある日、関係者を通じて資料を入手した。その中で、生徒に番組を視聴させた教諭自らが「心が通じあえた!」と喜びを抑えられない様子で台湾修学旅行の詳細をつづっていた。番組視聴について「語るに落ちる」その内容とは…。(さいたま総局 安岡一成)
「さいたまの教育と文化」と題された、教諭による教育実践実例を集めた小冊子が手元にある。季刊でB5判49ページ、グラビア付、一般にも1部700円、年間定期購読料2800円で販売されているものだ。この冊子を機関誌として発行しているのは「さいたま教育文化研究所」(さいたま市浦和区)。理事長は埼玉県教職員組合中央執行委員長、副理事長は埼玉県高等学校教職員組合委員長が務めている。
その「NO.68」に朝霞高校の教諭による5ページのリポートが掲載された。タイトルは「心が通じあえた! 平和と交流を柱とした台湾修学旅行のとりくみ」で、平成24年12月に同校で実施した修学旅行の内容だ。産経新聞は同校に取材し、掲載されたリポート内容に虚偽がないことを確認している。
それによると、実施した事前学習として4項目を挙げている。日本在住の台湾系華人が設立した「横浜中華学院」との交流▽立教大学留学生との交流▽現地の子供たちとの交流で行う英語での日本の紹介−と続き、とどめが出発1カ月前に行ったNHK番組の視聴だ。
このくだりにこう書かれている。「一昨年(23年)の先輩たちも事前学習でこの番組を視聴したのだが、日本の植民地支配の実態を突きつけられて『台湾へ行くのが怖くなった』といった感想が書かれた」。
この番組の内容については、後に埼玉県教育委員長の千葉照実氏も「ネガティブな部分ばかりで構成されていた。バランスを取るにはしっかりした説明がいる」と述べるほど偏向したものだった。純粋な生徒たちにとっては当然の反応といえよう。
その反省からか、その教諭は「なぜ植民地の歴史を学ぶのか」の趣旨説明を行うことにしたという。「未来に過ちを繰り返さないためにも、負の側面をもつ歴史からも学ぶことはたくさんある」と話したという。
さらに番組視聴後、生徒たちに参考資料として「台湾の人は日本をどうみているのか?」と題した一文を配布したという。
「台湾では覇権主義国家のアメリカや中国よりも平和文化国家の日本への人気が高い。そして台湾の『親日』が戦前の日本統治に好意をもっているからではなく、むしろそれを反省し、平和主義を掲げるようになった日本への信頼から来ている」−。
こんな文章を参考に書かれた生徒の番組の感想文には一昨年の生徒が示した「怖い」などの拒否感はなかった。しかし逆に、戦後の平和主義のみを好感の対象とする怪しげな前提をもとに、「未来志向」の内容が多かったという。こうした授業に、教諭は「この番組視聴はその後の歴史学習や現地での平和講演にむけてのよい動機付けとなった」と自画自賛する。
次のくだりでは現地での様子が詳述されていた。かつて日本の統治時代に東洋一の金鉱があった「金爪石(きんかせき)」という町を訪れ、現地の語り部の男性の体験談を聞いたという。
話の内容は「ここで掘り出された金が残らず日本全土に持って行かれた」「日本人住宅は日当たりの良い山の中腹に瓦屋根の立派な建物として建てられたのに対して、台湾人労働者の住宅は谷底にトタン屋根の粗末な作りで建てられていた。賃金や待遇にも差別はあった」「父が日本の官憲によりスパイ扱いされて捕まった。刑務所に米軍の空襲があり亡くなったが日米政府からの謝罪や補償は一切ない」…というものだ。
最後に「現在の日本人がアジア人に対して優越感を抱き、下に見るようなことがあれば、それは関係悪化につながる。対等の友好関係を築いてほしい」とのメッセージを送ったとしている。
日本では女性に参政権がなく、世界的にも人種差別が堂々とまかり通っていた時代だ。人権に対する意識が現代とは大きく異なっていた。今どきの高校生に「日本人がアジア人を下に見る」なんて感覚がピンときたかどうかも怪しいといえるが、とにもかくにも、生徒たちは「植民地の記憶を忘れてはいけない」「語り継ぐことが大切」などという感想文を残したとしている。
こうした修学旅行と事前学習が行われたことを12月6日の埼玉版で報道したことを受け、開会中の県議会文教委員会で教育委員会に対して徹底追及することになった。県教委側にはこんな質問が飛んだ。
「この番組は結論ありきの捏造(ねつぞう)といえる。検証本も出ていて内容の問題点が指摘されているのに生徒に見せるとは、教員のアンテナが低いのではないか。情報収集について改善すべきではないか」
「(語り部の父が)あらぬ容疑で刑務所に入れられたというが、当時の日本も法治国家だ。無批判に子供に伝えていいことか」
「日米から補償がされていないというが、日華平和条約で賠償は済んでいるはずだ。政府見解と真っ向から異なる内容だ」
県教委側はこうした指摘を受け入れるばかりで、ほぼ「降参」状態。千葉教育委員長はNHK番組について「訴訟中なので捏造であるかはコメントしないが、要は、ネガティブな面が強調されている。台湾総督府が置かれた当時のインフラ整備やダムの建設など、バランスよく紹介すべきだった。国の統計や公式見解と矛盾しているものなどはフォローしていかないといけない。生徒は不安を持った面もあった」と述べた。
実は埼玉県では、今年の2月にも県立高校の修学旅行で不適切ガイドが行われてたことが発覚している。
昨年10月、現地の女性ボランティアガイドが沖縄戦で使われた避難壕で「日本兵は住民の家に手榴(しゅりゅう)弾を投げた」「軍は住民が邪魔になり自殺を命じた」…。さらには「日本軍は朝鮮人を強制連行し、従軍慰安婦として暴行した」など、沖縄戦とは無関係の内容にまで及んだという。
ガイドを派遣した「沖縄県観光ボランティアガイド友の会」は産経新聞の取材に「通常は争いのあることに触れないようにしている。ガイドは言い過ぎたと反省している」と話した。
沖縄のみならず、親日であるはずの台湾でまで行われた「反日教育」。ある県議は「教育現場は本当に油断もすきもない。次から次へと、まるでモグラたたきだ」と嘆息した。
もう18年前のことになってしまったが、高校の修学旅行で初めて飛行機に乗り、北海道の大地で自然を満喫したことを思いだす。埼玉の県立高校ではなぜか修学旅行と「平和教育」がセットになっているところが多いというが、「セットでないといけない」という前提がそもそも疑問だ。
平和教育も否定はしない。ただ、予備知識がほとんどない高校生に、事実や通説とは異なる話をさも真実であるかのように伝えることは間違っているのではないか。
台湾では統治時代に行われた教育や、社会インフラ整備などが近代化に大きな恩恵をもたらしたと評価する人が多い。日本の大衆文化を好む人たちもまた多く、東日本大震災の際には民間義援金は約200億円に上っている。
これほどの「親日国」であるのに、多くの生徒にとっては交流の入り口となる修学旅行に、なぜわざわざ虚偽すらまじったネガティブな情報を与えるのか、理解に苦しむ。新年を迎えるに当たって、県議のいう「モグラたたき」をしなくてはいけなくなるのはもうたくさんなのだが…。