【解説】韓国はこれからどうなる 大統領罷免

ジーン・マケンジー、ソウル特派員 韓国の憲法裁判所は4日、尹錫悦大統領の弾劾を支持する判断を下した。裁判官全員一致の決定で、尹氏はただちに失職した。 尹氏は昨年12月に「非常戒厳」を宣布したものの失敗し、国会で弾劾され、職務停止となった。 尹氏の批判する人たちとが尹氏の支持者はそれぞれ、憲法裁の判決を生中継で見ようとソウル各地に集まり、裁判所の判断をそれぞれ喜びと悲しみの涙で迎えた。 尹氏の後任を選ぶ大統領選挙は、6月3日までに実施される必要がある。 ■次に何が起こる? 今後がどうなるか不透明で不安な数カ月間を経て、韓国国民はぜひとも必要な区切りをようやく迎えた。これからの韓国は、国を立て直しあらためて前進することができる。新しい指導者の選出が、その第一歩となる。 しかし、尹氏が引き起こした危機は、決して終わっていない。尹氏が軍を使って確立しようとした支配はわずか6時間しかもたなかったものの、政治への影響は時間と共に激化する一方だ。 昨年12月3日の夜、尹氏が軍を国会に投入したことで、韓国の人たちの意識の中で何かが変わった。この国の暴力的で独裁的な過去の亡霊が、再び呼び覚まされたのだ。そして、戒厳令など過去のものだと大半の人が思っていたにもかかわらず、実はそうではなかったのだと、国民は突き付けられた。 あの夜の出来事に、今も多くの人が動揺している。今後もまた、過激な政治家が戒厳令を敷こうとしかねないと、大勢が懸念している。 それだけに、4日の憲法裁判決は多くの市民を安心させた。ソウルの路上では、判決読み上げを中止していた大勢が歓声を挙げた。このことは、危険な状況に陥っているかに一時は見えた韓国の民主主義にとって、勝利だ。 憲法裁判所は尹氏の強権的な権力掌握を厳しく批判し、判事8人全員が同氏の罷免に賛成した。 憲法裁のムン・ヒョンベ裁判所長権限代行は、尹氏の短期間の軍事的な政権掌握は正当化されず、同氏が「本来守るべき国民と対立した」と述べた。 ヒョンベ氏はさらに、戒厳令の施行は「国民の基本的な政治的権利を損ない」、「法の支配と民主主義の原則を侵害した」と付け加えた。 韓国ではすでに、このような事態が再び起きないよう、憲法を改正して国の制度を強化し、大統領の権限を制限するべきだという声が高まっている。しかし、大統領が自分の権限縮小に同意するには、きわめて愛国心の高い次期大統領を選ぶ必要があるだろう。 ■対立がいっそう激化 失職した尹氏が残した韓国は、ただ揺さぶられただけでなく、分裂している。あの衝撃的な12月の夜の後、大統領と、大統領がやろうとしたことに対する嫌悪感で、ほとんどの国民は一致していた。 しかし、尹氏は反省の念を一切示さなかった。彼は主張を変えず、あらゆる段階で裁判と戦い、軍事的な権限掌握を正当化するために使ったのと同じ、根拠のない陰謀論を振りかざし続けた。 尹氏は、北朝鮮と中国のスパイが韓国に入り、国内で自分に敵対する政治勢力に潜入していると主張した。そして、こうした「反国家勢力」が過去の選挙で不正操作を行ったと力説した。 この言い分を信じる人が、じわじわと増えていった。その人たちにとって、尹氏は今や政治的殉教者だ。「共産主義者」に牛耳られた体制の犠牲者なのだ。 尹氏の陰謀論は今や韓国国内にしっかりと根付き、極右過激主義が盛んになっている。ソウルの中心部では毎週、何千人もの人が抗議を繰り返している。彼らは4日にも街頭に出ていたし、5日もそうするだろう。そして、この国の政治家や裁判官は腐敗しており、選挙は不正だと主張している。 これは決して、極端な泡沫(ほうまつ)的意見ではない。 国民の3割以上が、尹氏への判決を下した憲法裁判所を信頼していないと答えている。また、4分の1以上が選挙制度を信頼していない。 こうした不信感がたちこめる状況で、韓国は選挙に向かわなくてはならない。尹氏の後継者を今後60日以内に選ばなくてはならないのだ。この60日間で間違いなく、緊張と分裂がさらに深まるはずだ。多くの人は、選挙結果を受け入れないかもしれない。 しかし、もう何カ月も指導者がいなかった韓国には、国全体を代弁できる新しいリーダーが喫緊に必要だ。 韓国は、アメリカのドナルド・トランプ大統領への対応について出遅れてしまっているだけに、対策を早急にまとめなくてはならない。自動車と鉄鋼に25%というトランプ氏の関税は、韓国と不振な韓国経済に早々に打撃を与えたが、多くの人は、状況悪化を予想している。トランプ大統領が朝鮮半島に目を向けるのは時間の問題で、そうなれば韓国から防衛費の支出増強を引き出そうとするだろうし、韓国が敵対する北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記との取引を成立させようとするだろう。 尹氏の弁護団は、憲法裁判所が判決を政治的なものにしたと非難している。 「この裁判手続きそのものが合法ではなく不公平だった」、 「この決定は完全に政治的なもので、残念だ」と、弁護団の尹甲根(ユン・ガプグン)弁護士は述べた。 しかし、政治家たちは国民の団結を呼びかけ、韓国が前進し始められるよう、全員が判決を受け入れるよう求めている。 尹氏が率いる与党「国民の力」は判決を受け入れたが、尹氏自身は受け入れていない。声明の中で尹氏は、支持者に対し自身の「欠点」について謝罪したものの、判決には触れなかった。 「皆様の期待に応えられなかったことを心からお詫び申し上げます」、 「大韓民国に奉仕できたことは大きな名誉です。私の多くの欠点にもかかわらず、私を支え、励ましてくださった皆様に深く感謝しています」と尹氏は述べた。 韓国の憲法裁判所に上訴の制度はなく、その判断が最終決定になるため、尹氏は上訴できない。しかし、これまで最後まで戦うと繰り返し誓ってきただけに、このまま静かに表舞台を去ろうとはしない可能性がある。 ■これまでの経緯は 尹氏は昨年12月3日、北朝鮮に同調する「反国家」勢力から国を守るために「非常戒厳」を発動するという、異例のテレビ演説を行った。 尹氏は当時、大統領として窮地に立たされていた。予算案をめぐって行き詰まり、汚職スキャンダルに悩まされ、閣僚数人が捜査対象となっていた。 尹氏の宣言から2時間もしないうちに、国会議事堂に集まった議員190人(尹氏の政党の議員も含む)は宣言を覆す議決を採択した。 尹氏は12月14日に国会で弾劾され、職務を停止された。 同氏はまた、内乱罪にも問われており、韓国の現職大統領として初めて、犯罪で逮捕・起訴された。この罪状については後日裁判が開かれる予定で、現在は保釈中だ。 韓国ではこの数カ月の間に、尹氏以外の政治家も弾劾に直面している。尹氏の職務停止を受けて大統領代行を務めていた韓悳洙首相は、憲法裁判所の新判事任命を阻止しようとしたとして弾劾されたが、3月末に復帰した。 韓国では2017年に朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)が、親友の汚職スキャンダルに関与したとして罷免された。 (英語記事 South Korea's president has been removed from power: What happens now? )

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