いじめ調査「探偵に依頼」急増 「子供傷つけぬ調査難しい」

いじめ調査「探偵に依頼」急増 「子供傷つけぬ調査難しい」
産経新聞 2012年9月21日(金)15時36分配信

 大津市の市立中学2年の男子生徒=当時(13)=が自殺した事件などをきっかけに、いじめを受けたとする子供の保護者らが探偵会社に調査依頼や相談を持ちかける事例が急増している。背景には、いじめへの不安と学校側の対応への不信があるとみられ、実際に探偵の調査で問題が発覚することも。ただ、学識者には「子供の人間不信を助長する」と否定的な見方があり、探偵側も「子供が傷つかない調査は難しい」と複雑な思いを抱えている。

 いじめ調査を行う「T・I・U・総合探偵社」(東京都)では、従来月30件程度だったいじめ相談が、大津市の問題が表面化した7月からの約2カ月で、延べ約250件に急増した。

 昨年末、ある男子中学生から調査依頼のメールが届いた。学校にいじめを訴えたが「証拠がない」と言われたという。

 同社は両親の了解を得て調査を開始。生徒に録音機能付きカメラを内蔵した筆箱を渡すと、休み時間にロッカーに閉じ込められて「死ね」と暴言を吐かれたり、外からロッカーの扉をたたかれたりする様子が記録された。両親は映像を学校に提出。クラス替えなどの措置が取られ、いじめは収束したという。

 同社の阿部泰尚代表(35)は「調査をすれば子供と学校との関係がぎくしゃくする。だから、子供が何を望むのか、調査前に何度も確かめる」と話す。

 一方、大阪市の男性探偵(41)は「調査は子供には100%内緒だ」と明かす。中学生の息子を持つ父親の依頼で昨年行った尾行調査では、公園で3人の同級生から、地面に組み伏せられてプロレス技をかけられる様子を撮影した。

 「一緒に遊ぶ場面もあり、一見仲良しグループ。遊びといじめの境があいまいだからこそ証拠がいる」と男性探偵。「子供はいじめられていることを隠すし、たとえ協力的でも大人のように演技はできない。証拠を取るためには秘密裏にやるしかない」と話す。

 ただ、こうした調査手法には同業者にも懸念の声がある。探偵会社「ガルエージェンシー大阪本部」(大阪市)の福林英哉代表は「安易に証拠をつかもうとする“子供不在”の調査は危険だ」と警鐘を鳴らす。

 もし校内に持ち込んだ隠しカメラが同級生の前で発覚すれば、子供は立場をなくす。内緒で尾行されていたことを知ればショックを受け、親との信頼関係も揺らぐ。福林代表は「まずは学校に相談。探偵はそれがだめだったときの一つの相談窓口だと思ってほしい」と話している。

 いじめの調査を探偵に依頼することの是非についてはさまざまな見方がある。

 北海道教育大教職大学院の福井雅英教授(65)=臨床教育学=は「本来、学校と親が子供を真ん中にして落ち着いて話し合わなければ問題は解決しない。逆に、くさびを打ち込む行為だ」と否定的にとらえる。「探偵に頼むというのは、思春期の子供に、周りの人を信じてはいけないという人間不信のメッセージを大人が教えること。その子の将来の成長や人格形成を長い目で考えれば、過酷なことだ」と話す。

 一方、被害者の立場からは一定の理解を示す声が上がる。NPO法人「全国いじめ被害者の会」(大分県)の大沢秀明代表(68)は「親は何より本当のことが知りたい。でも学校は調べてくれなくて、警察も犯罪性がなければ被害届を受理しないという現状がある」と憤る。

 大沢さんは「多くの学校は被害者対策ばかりで、加害生徒の教育や指導を行おうとしない。被害者は自分で工夫していじめを解決するしかない」と指摘。「効果は不明だし悪徳業者のリスクも高いが、探偵に頼むことも選択肢になるのかもしれない」とみている。

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