<大津中2自殺>小さな骨つぼ、いつもそばに 自問続ける父

<大津中2自殺>小さな骨つぼ、いつもそばに 自問続ける父
毎日新聞 2012年10月11日(木)15時0分配信

 息子の死の真相を知りたい。無我夢中の1年だった。大津市立中学2年の男子生徒(当時13歳)が自殺した問題で、いじめの実態解明を訴えてきた父親(47)の熱意は、大きく世論を動かす力になった。11日、息子の一周忌を迎えた。「なぜ救えなかったのか。今していることは正しいのか」。父親は今も後悔と迷いにさいなまれ、自問を続けている。

 父親には宝物がある。小4だった息子が父の日にくれた肩たたき券だ。「使っても(息子が)回収しないから、何年も同じのを使ってね。『まだ持ってんの』なんて言いながら、してくれた……」

 仏壇には「墓に入れずにそばにいてやりたいから」と小さな骨つぼが置かれ、笑顔の遺影。そして真新しいブラックの「iPod(アイポッド)」があった。昨年10月10日、週末の旅行からの帰り道に、母親(47)が「2週間後、誕生日やな。何が欲しい?」と聞き出した。

 だが、翌朝8時過ぎ。通学する中学校が見える自宅マンション最上階の14階から、息子は身を投げた。両親はその後iPodを買い、約束を守った。

 異変には気付いていた。昨年9月半ば、息子が家族の郵便貯金カードを落としたのを、たまたま父親が拾った。7万円、2万4000円、3万5000円……。次々引き出されていた。理由を尋ねても答えない。いじめたとされる同級生らと遊園地に出かけ、外泊もしていた。親が知らない息子の顔。金の使途を問いただした。「ゲーム、漫画……」。息子が答えた物の多くは手元になかったが、息子はかたくなだった。「僕に悪い友達はいません」

    ◇

 昨年9月末、学校の体育祭が開かれた近くの陸上競技場。2年女子(当時)は、観客席で手足を鉢巻きで縛られ、顔に粘着テープを巻かれ、鼻だけが出ている異様な光景を見たという。女子によると、周りで同級生3人が背中を蹴っていた。首を絞められたり蜂の死骸を食べさせられそうになる様子も、複数の男子が目撃している。

 夏休み後、一線を越えた3人との関係。複数の女子が「いじめ」と訴えたが、担任の動きは鈍かった。最後に登校した日。「廊下で3人と“殴り合い”をさせられ、眼鏡が飛んで泣いていた」(2年男子、当時)。命を絶ったのは、その3日後だった。

    ◇

 学校に求めた生徒アンケートで、父親はこうした行為の一部を初めて知った。怒りで手足が震え、吐き気を覚えた。同級生3人の家に昼夜、何度も車で向かっては、チャイムを押そうとする自らの手を押さえつけた。

 3週間で調査を打ち切った学校を見切った。同級生や保護者からも独自に聞いて回った。9カ月続いた孤独な闘い。今年7月、市教委の情報隠しが明るみに出て事態は急変した。

 だが、父親の心に開いた穴は埋まらない。「息子を救えなかった私たちは親失格やと思う。だからこそ同じように苦しむ親子は出てほしくない。教師は子供の声に耳を傾けて、異変は親に伝えてほしい。今のままでは、息子に胸を張って、何も報告できないから」【千葉紀和、加藤明子】

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