自殺した高1息子のスマホ ロックを解除した母親が見た「いじめ」の証拠 学校側の調査は適切だったのか
産経新聞 2016年2月1日 17時0分配信
昨年9月、東京都内の自宅から遠く離れた山梨県大月市のJR大月駅で、都立高校1年の男子生徒(16)が列車に飛び込み自殺した。自殺の本当の理由を知りたい−。母親が執念でロックを解除した息子の携帯電話には、いじめを疑わせるやりとりが残されていた。学校側は調査で「原因は特定できない」としていたが、都教委は初めて調査部会を設置し調査似乗り出した。はたして学校側の調査は適切だったのか−。
■ツイッターに「死にたい」
男子生徒は昨年9月27日、山梨県大月市のJR大月駅のホームから線路に飛び込み、特急列車にはねられ死亡した。遺書もなく、縁もゆかりもない場所での自殺だった。手がかりを求め、母親は息子の死後、携帯電話のロックを解除し、ツイッターの書き込みを見て驚いた。そこには、「死んでしまいたい」「飛び込みたくなった」「ホームドアがあってよかった」といった、自殺をほのめかす内容があったという。
初めて書き込みを見たという母親は、「本当にびっくりした。生きているときに見ていたら、学校には行かせていなかった」と悔やんだ。
1月25日に母親とともに記者会見した代理人の弁護士は「LINE(ライン)」のやりとりや学校アンケートなどから、所属する部活動の中でのいじめが疑われると説明。クラスでも孤立していたとし、「浮いていた、『いじられキャラ』だった、1人でいて寂しそうだったなどの状況が明らかになっている」と述べた。
■学校「生きている生徒が大事」
母親によると、昨年10月6日以降、ラインやツイッターを校長ら学校側に見せ、いじめの有無について調査を要望した。その後、何度か調査を要望し、学校側は11月11日、全校生徒を対象としたアンケートを開始。聞き取り調査も行った。
約1カ月後、学校側から知らされた調査結果は、「学校としては、彼の死につながる原因を特定できない」というものだった。
母親は、アンケートなど調査結果すべてに目を通した上で、聞き取り内容が少なかったことなどを挙げ、「全体的に表面的だった」と話す。さらに学校側は「生きている生徒の心のケアが大事だ」「いじめなんて聞いたことがない」とも話したといい、母親は傷つくとともに「学校への信頼がどんどんなくなっていった」という。
母親は11月以降、調査について学校側とやりとりをしながら、学校を通して都教委に「第三者機関による調査」を要望。都教委も母親と直接やりとりをした上で、いじめ問題対策委に調査部会を立ち上げることが適当だと判断した。
■「さらなる調査必要」都教委判断
都教委のいじめ問題対策委は、滋賀県大津市の中2男子がいじめを苦に自殺した問題を受け、25年に施行された「いじめ防止対策推進法」に基づく条例により設置された。
同法では、児童や生徒がいじめにより亡くなったり、長期の不登校になったりした疑いがある場合などを「重大事態」とし、学校や学校の設置者である教育委員会の下に組織を設け、事実関係を明らかにする調査を行うことを規定している。
都教委によると、対策委が設置された26年度、都立学校での「重大事態」は2件。生徒が死亡する事態ではなかったが、いずれも調査部会の立ち上げには至っていない。このときは「学校調査で事実が明確になり、保護者も納得した。また、学校に復帰するなど一定の解決がみられた」という。
今回、初めて調査部会の立ち上げに至った理由について、都教委は「学校調査では、いじめがあったかどうか明確になっていない。遺族の要望だけでなく、都教委としても第三者によるさらなる調査が必要だと判断した」と説明する。
専門家8人で構成する調査部会のうち、4人は遺族側が推薦し、対策委が専門性を認めた教育評論家や弁護士らだ。1月25日の初会合では、遺族側から直接、調査について要望を聞くなどの配慮も行った。
■遺族の疑問点を明らかに
部会長の坂田仰(たかし)日本女子大教授は、「できるだけ早くまとめたいが、事実関係が明らかになるまで続ける。公平中立な立場から慎重に進めたい」とし、今後は「どこにご遺族と学校側の意見の対立があるのかや、ご遺族の疑問点を明らかにし、どんな調査をするか検討していく」という。
母親は「小1から科学者になりたいという夢があった。将来の夢を決めていた息子がなぜ死ななければならなかったのか。学校で何があったのかを教えてほしい」と話す。聞き取りなどの調査は急ぐ一方、いじめの有無についての判断はじっくり行ってほしいとの意向も示しており、慎重な調査が求められている。