女子部員に全裸強要…日本に根付く「セクハラ部活」の闇 これは、現実の話です
現代ビジネス 2017/6/16(金) 19:11配信
子どもたちの自主性や人間力を育てる場として、学校教育において年々重要性を増す部活動。ところが、今、児童虐待と化している「ブラック部活」が社会問題化。「ブラック部活」と名付けて警鐘を鳴らし、このたび『部活があぶない』を出したスポーツライターの島沢優子氏が、特に深刻なセクハラ部活の実態をレポートする。
全裸になるよう強要
5月末。大阪府堺市の公立高校で、56歳の男性教諭が、顧問を務めるソフトテニス部の女子生徒に対し、全裸になるよう強要したという事件が報じられた。
試合で負けたことを理由に女子生徒を教室に呼び、室内を仕切る壁越しに「裸になれ」と繰り返し全裸にさせ、「先生とエッチできるぐらいの覚悟で試合に臨め」「大人になったらエッチしよう」などと発言したという。
この部員だけではなく、部員の過半数がセクハラ発言をあびせられたり、顔を平手打ちされたりしていたことも明らかになった。堺市教育委員会は5月29日付けでこの教諭を懲戒免職処分にした。
「裸になるぐらいの覚悟で頑張れとの趣旨だった」と説明したこの顧問の愚鈍さには呆れかえるが、なんと、彼は前年度まで大阪府高校体育連盟の理事を務めている。
高体連の理事といえば、部活指導の改善を推進すべき側だ。
大阪府高体連事務局に問い合わせたところ、元専務理事の失態に困惑した様子でこう答えてくれた。
「遺憾です。指導については口酸っぱく言ってきたのですが、なかなか変わらない。(この事件があって)すぐに徹底するよう通知しました」
高体連が言うところのメールやファックスの通知で、セクハラ顧問たちが襟を正していくれればよいのだが、はたして強制力はどのくらいあるのだろう。
もしほかに女性を性的に支配することに味を占めた顧問がいたとして、通知程度で行いを変えるだろうか。
2016年10月には、神奈川県横浜市の市立中学校女子バレーボール部顧問が、部員14名に対し体罰やセクハラ行為を繰り返していたとして懲戒免職になった。
顧問教師は14年8月から16年2月ごろまでの間、体罰・暴言とともに、女子生徒の尻や胸を触る、足や腰をマッサージするなどの行為をしたという。
「(チームを)強くしたかった。指導の一環だった」と教師は話したそうだ。
90年代に報道された九州地方の高校女子バスケット部の顧問による性的虐待は、さらに異常さを帯びる。
顧問は複数の部員と性的関係を持っていたのである。
二人、三人と肉体関係を結ぶ者が増えるとともに、部員間に噂が広まっていった。
本来なら、噂を聞いた時点で、部員は親にその異常性を告発するはずだ。ところが、すぐにはそうならなかった。それどころか「(顧問と)関係を結んだ子が(チームの)エースなのだ」という歪んだ価値観にすり替わっていき、結果、事件発覚が遅れた。
事情を知る人によると「選手たちに、顧問との関係を望むような風潮があった」という。
顧問による身体的・精神的支配に基づくブラックな状態は、男子の部活にも存在するが、男性が顧問をつとめる女子の部活は、強制わいせつ罪につながることもある。
合宿などで男性顧問の下着を洗わされたり、体をマッサージさせられるケースなども聞いたが、保護者は「先生にやってあげたらいいじゃないの」と信じられないほど鈍感だった。
保護者が性犯罪にあまりに疎いことも、セクハラ部活を根絶やしにできない要因の一つだ。
さらに、女性部員が多くを占める吹奏楽部も、常にセクハラ部活への危険性を秘めている。
吹奏楽部の男女比は、平均でおおよそ1対9(森田信一「クラブ活動としての吹奏楽の変遷」2005年)。圧倒的に女子が多い空間がつくられる。
そのなかで、男性顧問が「腹式呼吸の練習」と称し、女子生徒の腹部や胸部に手をむやみに押し付けて触ったセクハラ事例がかなりあるという。
2016年12月。福岡大付属若葉高校(福岡県福岡市)で吹奏楽部の顧問をしていた芸術科の男性教師(44歳)が、女子部員に対してセクハラ行為を長期間にわたって続けたとして、諭旨解雇の懲戒処分にされたことが発覚した。
男性顧問は、複数の部員にブラジャーのホックを外して楽器を吹くよう指示。「好き」「かわいい」などとメールを送ったり、下腹部を触ったりしたという。
被害者が悪い…わけがない
このような部活のブラックな現実を報じると、多くの人が「ひどすぎる」と加害者側を非難するが、一部では被害者側の対応を疑問視する声もあがる。
「部活をやめればよかったのに」
「どうして転校しなかったの?
「親には言えなかったの?
と。
そうしたコメントを寄せる人には理解しがたいことかもしれないが、セクハラや暴力を受けた生徒はその場からなかなか逃げられない。
セクハラや暴力は愛情故だと顧問は言い、生徒たちは、顧問を恐れながら、部活という場所で何とか生き抜こうとする。
「顧問は私たちのために厳しくしている」と思い込もうとする。
そう解釈しないと耐えられないからだ。
日本のほとんどの子どもは「嫌なことでもやらなきゃいけないことがある」とか「ほかの人も頑張ってるんだから」と、辛いことを我慢して戦うことが美徳だと教え込まれる。
我慢する力が悪いわけではないが、「みんな我慢している」という集団心理から一人抜け出すことは容易ではない。
毎月のように報じられるブラック部活の報道は、依然として、この国の子どもたちが部活で苦しみ続けていることを示している。
部活全入時代が来る
部活における問題は、もちろんセクハラ部活だけではない。
体罰・暴言による自尊心の崩壊。
過度な練習によって、人生にわたって悩むことになる慢性のケガ。
ブラックバイト・ブラック企業に適応する人格の育成。
など、ブラック部活はさまざまなリスクを子ども達の人生に課す。
2020年以降、こうしたブラック部活に対して、今後保護者達は、わが子をブラック部活に追いやらないようアンテナを張り続けねばならなくなるだろう。
部活での経験が、大学受験の合否に直結する時代がくるからだ。
文部科学省が推進する大学入試改革により、2020年度から国立大学が独自に行う個別入試では、人物重視の多方面な評価への転換が予定されている。
評価項目は、受験生の部活や就業体験、ボランティア活動など。
そのなかでも中高生がたやすく実践できるのが部活だろう。そのような中で、部活に入らない、という選択肢は親子ともになかなか取りにくくなることは想像に難くない。
部活を学校教育の中で重要視するのであれば尚更、ブラック部活解消を急がなくてはならないのである。
部活改革は待ったなしなのだ。
島沢 優子