神戸の中3女子いじめ自殺、市教委「証拠」隠蔽工作はあまりにも情けない

神戸の中3女子いじめ自殺、市教委「証拠」隠蔽工作はあまりにも情けない
ダイヤモンド・オンライン 2019/4/19(金) 6:00配信

 2016年に神戸市立中学3年の女子生徒(当時14)が自殺した問題を巡り、市の再調査委員会は16日、いじめが自殺の原因だったとする報告書を久元喜造市長に提出した。市教育委員会が設置した第三者委員会は「いじめと自殺との因果関係は不明」としていたが、再調査委は「中1から中3までのいじめが大きく寄与」と明白に因果関係を認め、さらに市教委幹部らによるメモの隠ぺい工作についても「遺族や周囲の心ある生徒たちの思いが非常に軽く扱われた」と厳しく指弾した。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

● 同級生らのメモ存在を隠ぺい

 女子生徒は16年10月6日、同市垂水区の深さ1〜2センチの川で倒れているのが見つかった。高さ5メートルにある橋の欄干に切れたロープがあり、橋に置かれていたリックサックに遺書が残されていた。

 再調査委の報告書などによると、いじめは女子生徒が1年のときにはじまり、インターネット投稿した動画を「盗作」と中傷されたことなどが始まりとされる。さらに2年では同級生から陰口や無視、からかうなどの行為があり、クラスで孤立した。

 3年では廊下で足を引っ掛けられたり、わざとぶつかられたり、体育関連行事で大縄跳びの練習を休んだことで非難されたりもしたという。

 こうした同級生らの行為をいじめと認定し「学校内で完全に孤立し、中3では居場所がなくなったと感じ、自傷行為もするようになった」「誰に相談しても無意味という絶望感を抱いていた」として、自殺に至ったと結論付けた。

 ほかにも報告書は「教師は誰もいじめと認識せず、人間関係のトラブルととらえた」「女子生徒の異変に気付いた生徒もいたが教師に相談しなかった」「メモの隠ぺいについて女子生徒の遺族や同級生ら、保護者は(教育委員会に)強い不信感を持った」と指摘した。

 この問題を巡っては女子生徒が自殺した5日後の11日、学校が同級生らに聞き取り調査を、20日には市教委が設置した第三者委員会も調査を開始した。

 一方で女子生徒の遺族は17年2月16日、神戸地裁に証拠保全を申請。女子生徒が通っていた当時の校長は市教委首席指導主事から「事務処理が煩雑になる」「腹をくくってください」などと隠ぺいを指示されており、3月6日、遺族に「メモは残していない」と虚偽の説明をしていた。

 市教委が設置した第三者委にもメモは提示されず、第三者委は8月8日、独自に実施したアンケートを基にいじめを認定したものの、自殺の原因については「特定できない」とする報告書をまとめていた。

 しかし同月下旬に後任の校長が「メモが存在する」と市教委に報告。しかし市教委は「メモの内容はアンケの内容とほぼ一致」として十分な調査をしなかった。

 この校長は18年3月、遺族が「調査は不十分」と再調査を求めたことを受け、再度、市教委へメモがあることを報告。市教委は4月22日、「破棄されたとしていたメモは存在していた」と隠ぺいがあった旨の発表をしていた。

 これを受けて久元市長は同26日、遺族に面会し「これまでの対応は不適切だった」と謝罪、メンバーを一新した再調査委員会を設置する方針を示した。そして、再調査が進められていた6月3日、当時の校長と市教委首席指導主事が虚偽の説明で隠ぺい工作をしていたことが発表された。

● 母親の無念な思い

 再調査委の報告を受け、女子生徒の母親が娘の描いた自画像を携えて記者会見し「いじめとの因果関係を認めていただき(再調査委に)感謝している」と語った。次のようなコメントも発表した(一部抜粋)。

 「娘が亡くなってから今日まで、どうしてこんなことになってしまったのか訳が分からず、私は娘の死と向き合うことができずに、学校で何があったのか、なぜ娘は亡くならなければならなかったのか、いじめの事実を追求することだけをしてきました。

 ただ、教育委員会が設置した第三者委員会の調査結果を待っていただけだったら、おそらくいじめがあったことも認められることはなかったのではないかと思います。

 また、生徒たちの証言内容は変わっていないはずなのに、調査する人が変われば報告書の内容が違ってくるのはなぜなのでしょうか。

 最初の教育委員会が設置した第三者委員会のときに、再調査委員会のようなしっかりとした調査が事件直後から行われていたら、2年半もかかることもなかったし、もっと事実が判明したかもしれないし、それを踏まえた加害生徒への指導もできたのではないのでしょうか。

 今後、もう二度とこのような悲しい出来事が起こってほしくはありません。学校、教育委員会は再調査委員会の提言をしっかりと受け止めて反省をしてほしいと思います。

 そして今回の報告書が今後のいじめ対策に具体的に生かされることを願っております」

 文面は穏やかながら、学校と教育委員会に対する強烈な不信感がうかがえる。

 この問題を巡り今年1月11日、市教委の首席指導主事が停職3ヵ月など、5人が懲戒処分を受けた。遅すぎるぐらいの処分だが、首席指導主事は「校長と協議の結果であり、一方的な指示ではない」と主張しつつ、上司に「メモは存在しない」と虚偽の報告をした点についても否定、というやや矛盾した主張で人事委員会に処分取り消しなどを申し立てたことが明らかになっている。

 残念ながら、この問題をこじれさせた首席指導主事は女子生徒の母親が望む「反省」よりも、わが身かわいさの「保身」が大事なのかもしれない。ただ、周囲の冷たい視線に気付かないのは少し気の毒な気もする。

 実は、こうしたいじめや自殺を巡って教育委員会が設置した第三者委員会の調査結果に、関係者が不信感を募らせるケースが後を絶たない。

 「大津市中2いじめ自殺」をきっかけに制定され13年9月に施行された「いじめ防止対策推進法」で、自殺や不登校など重大事態が確認されれば、第三者委員会などによる調査が義務付けられた。しかし、調査委の判断を不服として遺族らが再調査を求め、結論が覆るケースは珍しくない。

 今年3月27日、14年8月に鹿児島県立高校1年の男子生徒(当時15)が自殺した問題で、県教委の調査委員会が「いじめを裏付けることはできなかった」と結論付けていたが、県の再調査委はいじめを明確に認定した。

 同3月20日には、15年11月に茨城県取手市立中3年の女子生徒(当時15)が自殺した問題で、県教委はいじめとの因果関係を認定したうえで「担任教諭の指導が(いじめを)助長させた」と指摘、さらに市教委が法に基づく調査委の設置を怠った対応を「違法」と認定した。

 ほかにも市教委はいじめがあったと認識していたのに、教育委員に都合の悪い情報を提供せず「ミスリードするような姿勢があった」と批判した。

 いじめは今に始まったことではなく、昔からあった。昨今、表面化するのは大津いじめ自殺をきっかけとした法の施行で、握りつぶせなくなったためなのは言うまでもない。しかし、そもそもいじめと隠ぺいは現場の教員だけの責任ではない。

 長く教員を務め、管理職も経験した友人に聞いたことがある。

 「いじめは、なくならない。大人の世界でも存在するし、人間の本能のようなもの」

 「いじめがないように指導する立場の大人、教育関係者が隠そうとする。根絶できるわけがない」

 今回のような教育行政に携わる大人による「隠ぺい」は、子どもたちにとって最悪かつ、もっとも卑怯(ひきょう)な反面教師だろう。

 こうした一握りの教育行政幹部により、現場の教員が不信感を持たれてしまう。部活などで長時間労働に向き合い「ブラック職場」と化していながら、懸命に教育・指導に向き合っている教員らが気の毒で仕方がない。

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