不登校や会食恐怖症の原因にも…学校の過剰な「完食指導」がはらんでいる問題とは

不登校や会食恐怖症の原因にも…学校の過剰な「完食指導」がはらんでいる問題とは
オトナンサー 2019/5/5(日) 6:40配信

 学校給食は、小中学生の楽しみの一つですが、中には「給食を残してはいけません」と先生に言われ、給食時間が終わった後も居残りさせられた経験を持つ人がいます。これを「完食指導」といい、指導が過剰になって体調を崩したり、不登校になったりする事例が増えています。さらに、それが原因で「会食恐怖症」という精神疾患になるケースもあるのです。

 筆者も会食恐怖症を経験した一人です。克服しましたが、同じような悩みを持ち、苦しんでいる人を少しでも助けられればと、一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会を設立して、過剰な完食指導や会食恐怖症についての相談を受けています。完食指導の現状や問題点について、ご説明します。

完食できなければ、クラス全員の前で謝罪

 近年、主に学校給食での「完食指導」が原因となり、さまざまなトラブルが引き起こされたという報道が増えています。「給食は残さず食べるものだ」という考え方は昔からありますが、一体なぜ、このようなトラブルが表面化してきているのでしょうか。

 具体的な事例を挙げると、岐阜県の市立小学校で2017年9月、50代教諭が担任を受け持った1年生のクラスで給食を残さないように指導し、数カ月の間に4人の児童が嘔吐(おうと)。2018年6月には静岡県で、当時小学6年の児童が、担任から給食の牛乳を飲むよう強制されたことでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、学校を管轄している町に対し、家族が250万円の慰謝料を求める訴えを起こしたという報道もありました。

 岐阜県や静岡県の小学校の事例では、児童に大きな健康被害が発生し、マスコミを通じて報道されたことで、世の中に知られることとなりました。こうした事例だけではなく、筆者のところには、表沙汰になっていない相談も届きます。完食指導についての相談先がまだ全国には少なく、相談が増えていると感じています。

 最近、一番印象的なものとしては、給食を食べない児童に対して、担任が「クラス全員の前で謝罪させることを強制している」というものがあり、それがきっかけで不登校になったという相談がありました。

「今はそういう指導は、ほとんどないのでは」と言われることも多いのですが、保育所や学校の給食における完食指導、部活動における食事量の強制などの問題は、実際にまだまだ多いのです。

「会食恐怖症」とは?

 完食指導が行われることで、「学校給食が嫌で不登校になった」というケースの相談も多いのですが、この完食指導がきっかけで「会食恐怖症」などの精神疾患を引き起こすケースもあります。会食恐怖症とは「人とご飯を食べることができない」というもので、神経症の社交不安症における一つの症例とされています。

 会食恐怖症の人が、人と食事を取ろうとしたり、あるいは食事機会を想像したりしただけでも、吐き気、めまい、胃痛、動悸(どうき)、食べ物が飲み込めなくなる嚥下(えんげ)障害、口の渇き、体の震え、発汗、顔面蒼白(そうはく)、空気を飲み込んでおなかが張る呑気(どんき)、黙り込んでしまう緘黙(かんもく)などの症状が起きて、「みんなで楽しくご飯を食べる」どころではなくなってしまうのです。

 そして、日本会食恐怖症克服支援協会が会食恐怖症の当事者に向けて行ったアンケート(2018年9月)では、384人の回答者のうち62.5%にあたる240人が「完食指導が会食恐怖症のきっかけになった」と回答しました。

 会食恐怖症当事者の中には、50代以上の人もいますが、そのきっかけとして「子どもの頃、先生に給食の完食を強制されたこと」を挙げる人もいるので、それがきっかけで長年悩むことになったと考えれば、その人の人生に大きな影響を与える問題です。

 しかし、完食指導の全てが悪いのかというと、そうではありません。完食する子どもが増えるということは、その子どもたちの栄養がしっかり満たされることにつながりますし、食べられる食材が増えて、子どもたちの「食の楽しみ」が広がることにもつながります。また、クラスの残飯が少なくなれば、食料の廃棄量が減ることにもつながります。

 では、何が問題かというと「やり方」です。例えば、勉強が嫌いな子に無理やり勉強させたところで、嫌いなものは嫌いですし、自分から前向きに勉強する気は起きないはずです。つまり、「無理やり食べさせる」「食べろと言えば食べるだろう」というのが古いのです。また、食べられない子は「食べろ」と言われても食べられないので困っているのです。

 強制することなく、食べられるようになる方法はあります。しかし、ほとんどの大人たちはそれを知らず、どこかで勉強機会があるわけでもないので、ついやってしまうということなのです。今回は「完食指導」の現状や問題点についてお伝えしました。次回以降、さらに内容を深めていきたいと思います。

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