部活顧問のパワハラを絶対に許さない 対抗の鍵は「教育委員会とSNS」〈AERA〉

部活顧問のパワハラを絶対に許さない 対抗の鍵は「教育委員会とSNS」〈AERA〉
AERA dot. 2020/1/4(土) 17:00配信

 理不尽な部活顧問の暴言やパワハラに対し、権力に屈しない保護者が増えてきた。昨今のスポーツ界での「パワハラ告発」が保護者の行動を後押ししているという。AERA 2019年12月30日−2020年1月6日合併号では、パワハラ教諭の実態とその対抗策について紹介する。

【表で見る】わいせつ行為などで処分された教員数

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 首都圏にある公立高校では、野球部顧問のパワーハラスメントに対し、立ち上がった親もいる。

 2年生の男子生徒は1年生だったある日、野球部の顧問から無視されるようになった。練習では声もかけられないし、目も合わせられない。体育の授業の際の点呼は自分だけ飛ばされた。

 身に覚えがあった。その少し前に、2年生が自分の同級生を殴る暴力事件が起きたが、それについて顧問は部員らに何の説明もしなかった。正義感が強く納得できない男子生徒は、

「どうなっているんですか? 部全体に説明してください」

 と願い出た。顧問は、

「おまえには関係ない」

 と取りあってくれなかった。そこから無視が始まった。

 実は彼らが入部する前の年、顧問は部員に暴力をふるい一時期謹慎していた。だが、学校は教育委員会にも高野連にも届けていない。そんな蒸し返されたくない過去があるからか、説明を求める男子生徒を疎ましく思ったようだ。試合のメンバーから外されるようになった。

「おまえなんか永遠に入れないんだよ!」

 と、怒鳴られた。

 同学年の別の部員も顧問、副顧問の2人からパワハラを受けた。体育祭の日は、

「おまえみたいなやつは野球部の輪にもクラスの輪にも入るな」

 と言われ、終日用具室の前で過ごした。出場種目も制限された。練習中に自分の意見を言うと「なに反抗してんの」とけんか腰。この生徒はスポーツ推薦で入学したため「部をやめるなら学校もやめろ」と脅迫のように言われた。

 顧問らからパワハラを受けた2人の親たちは、一緒に学校へ出向き指導の改善を申し出た。学校長は「行き過ぎた指導」と認め改善を約束したが、その日から2人への無視や暴言はさらに悪化した。そこで親は、息子にボイスレコーダーを持たせた。

 副顧問から呼ばれた際に、ボイレコのスイッチを入れて上着のポケットに入れた。長時間にわたって理不尽に罵倒する声はすべて記録された。

「おまえのお母さんにそういうふうに言われたり、何か事実をねじまげて伝えられてさ。全然違うことになっているのはさ、何で? はっきり言うけどさ。おまえ、このまま社会に出たらとんでもないことになるよ」

 40分ほどの説教は書き起こされ、A4シート7枚に。親たちはそれを学校に提出して、教育委員会にも改善を求めた。

 学校やスポーツ現場のパワハラに詳しい弁護士の宗像雄さんは言う。

「パワハラに関して、親子が泣き寝入りしなくなった傾向を大いに感じている」

 理由として宗像さんが挙げたのは2点。一つは18年に起きた女子レスリングの伊調馨選手へのパワハラ問題で、監督が一時的とはいえ、その座を追われたこと。こうした事実が、訴える側の成功体験になった。二つ目は、スマートフォンなどで録画・録音しての証拠確保が容易になったこと。SNSなどで拡散できるため「最後は社会に訴える」という選択肢ができた。

 声を上げたからといって、セクハラやパワハラがすぐに改善されるわけではない。それでもパワハラ被害を受けた野球部の生徒の母親(50代)は言う。

「立ち上がってよかった。本人はかなり強くなった。悪いものは悪いと言えるようになったのではないか」

 ただ、部内で親の分断を避けられないのも、また事実だ。

「部の中に派閥を作りたいわけじゃない。嫌だけど顧問には言えない、という親には押しつけません。おかしいよね、という気持ちだけ共有しようねと、ゆるく繋がっていきたい」

 声を上げることで、少しずつ現場が変わり始めている。(ライター・島沢優子)

※AERA 2019年12月30日−2020年1月6日合併号より抜粋

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