いじめ被害訴えても…調査拒む学校、後絶たず 「表面化は氷山の一角」

いじめ被害訴えても…調査拒む学校、後絶たず 「表面化は氷山の一角」
西日本新聞 2021/6/18(金) 10:41配信

 いじめ被害を訴えても、学校側が調査を拒む―。熊本県内でこうしたケースが後を絶たない。宇城市では、いじめで不登校を余儀なくされているとして、調査を求めた市立中3年の男子生徒に対して、市教育委員会や学校は「いじめが原因ではない」と拒否している。専門家は「学校側の対応は、法律や国のガイドラインに違反している」と指摘する。

 いじめ防止対策推進法は、いじめで心身に重大な被害が生じた場合や、年間30日程度の欠席を余儀なくされている場合を「重大事態」と定義。弁護士や精神科医らによる調査を学校側に義務付けている。文部科学省のガイドラインでは「被害児童生徒や保護者から申立てがあった場合には、重大事態が発生したものとして調査・報告等に当たる」と明記している。

 保護者らによると、生徒は昨年2月ごろから、複数の同級生に「学校に来るな」「ぶっ殺すぞ」と言われたり、無視されたりした。不登校になり、昨年度の欠席日数は100日を超えた。保護者は今年4月、重大事態として対応するよう市教委や学校に求めたという。

 しかし、市教委は調査を拒否。西日本新聞の取材に「既に加害生徒が謝罪し、解決した。不登校はいじめが原因ではないため、調査しない」と答えた。

 市教委の対応について、永田憲史関西大教授(いじめと法)は「生徒側から訴えがあった時点で調査義務が生じる。市教委や学校が調査の可否を判断できるものではない」と疑問視。「担当者の理解不足などが原因で、法に反した手続きが行われている」と指摘する。文科省も「申し立てがあれば調査すべきだ」との見解だ。

 「表面化する被害は氷山の一角」と強調するのは、被害者の支援団体「学校問題サポート熊本」の吉村由起子代表(63)。吉村さんによると、学校側は重大事態として扱うことを避ける傾向があり、「調査を拒否され、被害者の児童生徒が卒業や転校を機に諦めることが多い」という。

 被害を訴え続け、調査が始まった例もある。

 県教育委員会は今年1月、県立高元生徒の男性(22)のいじめ被害について「在学中の2015年に重大事態が発生していた疑いがある」として調査することを決めた。県弁護士会が男性の人権救済申し立てを受けて、対応を改善するよう県教委に要望したことで、事態が大きく動いた。

 男性の母親によると、県教委にガイドラインを持参して調査を要望したこともあるが「回答できない」「該当しない」などと言われ、拒否されてきたという。被害から5年以上かかったが、母親は「外部の専門家に相談することが解決への糸口になった」と話した。

 (綾部庸介)

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