【詳細解説】「井ノ口はやりすぎだ」日大・田中理事長の発言の真意は？今後の捜査は？
日本テレビ系（NNN） 2021/11/26(金) 20:02配信
日本大学をめぐる背任事件では、大学の元理事と医療法人の前理事長が起訴される一方、田中英壽理事長の立件は見送られた。「井ノ口はやりすぎだ」元理事を非難しつつも、被害届は出さないという田中理事長の真意と今後の東京地検特捜部の捜査の行方を解説する。
■別の事件が端緒に…日大本部に捜査のメス
今年9月、特捜部は東京・千代田区の日本大学本部や完全子会社の「日本大学事業部」などに家宅捜索に入った。そして、10月には、背任容疑で日大元理事の井ノ口忠男被告と医療法人グループの前理事長、籔本雅巳被告を逮捕・起訴。その後、再逮捕を経て、特捜部は今月16日、2人を背任の罪で追起訴した。2人は、付属病院の建て替え工事などをめぐり、大学に合わせて約4億2000万円の損害を与えたとされる。
関係者によると、日大に捜査のメスが入るきっかけとなったのは、去年、特捜部と公正取引委員会が合同で着手した医薬品談合事件だった。この捜査の過程で、日大の付属病院や籔本被告が関連する会社をめぐり、不透明な資金の流れが見つかり、内偵捜査の末、今回の強制捜査に乗り出したのだ。
ある検察幹部は日大本部の家宅捜索に踏み切った際、その目的について「学校法人の見えない闇を暴くこと。学校法人はワンマン体制になってしまうことがあり、一般企業と違って、意思決定の過程が見えにくい」と捜査の意義を語った。
その上で、2010年に設立された日本大学事業部の存在を指摘し、「この事件の全体像は、日大事業部が生まれた時からできていたはず。そこまでさかのぼり、事件の構図がどのように描かれたのか解明しないといけない」と捜査の進むべき道を語っていた。
特捜部の調べに対し、井ノ口被告は資金の流れなどを大筋で認め、籔本被告も起訴内容を認めているという。
■田中理事長―背任事件への関与を否定
特捜部は強制捜査に乗り出して以降、大学トップである田中理事長の事件への関与についても捜査を進めていた。関係先として、田中理事長の自宅を2度捜索し、複数回にわたって任意で事情聴取を行った。
井ノ口被告や籔本被告は、逮捕後の取り調べに対し、「田中理事長に、一連の取引に関する『謝礼』などの趣旨で現金数千万円を渡した」と供述していた。ただ、渡した現金の趣旨について田中理事長には説明していないとも述べたという。
一方、田中理事長は、任意での事情聴取に背任事件への関与を否定した上で、「井ノ口被告からも籔本被告からも金を受け取っていない」と現金の受け取りそのものを否定した。
背任罪の共犯として罪に問うには、資金を流出させる計画を具体的に認識していたことを立証する必要があるが、一連の捜査の結果、そこまでの認定には至らなかったとみられ、最終的に田中理事長の背任罪での立件は見送られた。
■取材には無言―田中理事長の真意とは？
大学内部で起きた背任事件に対して、田中理事長はどう受け止めていたのか。記者の度重なる取材に無言を貫き、学内の会議でも出席者が多い場では事件についてほとんど言及しなかったとされる田中理事長だが、今年10月29日行われた少人数の会議では15分にわたり、自らの考えを語ったという。
関係者によると、田中理事長は背任事件により大学が損害を受けたとされる点について「大学として割り増しして費用を払ったわけではない」と語り、「俺はやっていない」と自身の事件への関与も否定したという。
井ノ口被告については「井ノ口はやりすぎだ。あそこまでひどいとは思わなかった」と非難する一方で、「（井ノ口被告は）元々大学の人間だったから被害届は出さない。大学としても損害を被っていない」などと説明したという。被害届については、今も出されないままだ。
■今後は所得の解明に焦点
特捜部は、田中理事長の背任罪での立件は見送ったが、井ノ口被告らが現金の提供について供述したことなどから、田中理事長の所得に関連した捜査を続けているとみられる。
家宅捜索では、田中理事長の自宅から1億円以上の現金が見つかったが、日本テレビの取材に対して、日大は「理事長の自宅に保管されていたのは、1〜2億円であり、理事長の役員報酬やちゃんこ屋の利益などの個人的な財産と聞いている」「（井ノ口被告、籔本被告からの）理事長への現金提供はないと聞いている」「（理事長の）税務申告は適切に行っていると聞いている」とコメントした。
特捜部は今後、田中理事長の税務申告に問題がなかったかなどについて、実態解明を進めていくとみられる。