教員の性暴力から20年超 PTSDで苦しみ続く

教員の性暴力から20年超 PTSDで苦しみ続く
産経新聞 2022/5/3(火) 20:31配信

4月に施行された「教員による児童生徒性暴力防止法」で、教員から子供への性的行為が「生涯にわたって回復しがたい重大な影響を与える」ものとして明確に禁止された。高校時代に男性教員から性暴力を受けたとして、教員と母校に総額1100万円の損害賠償を求めている女性(46)は「ほかの子供が私と同じような苦しみを抱えてほしくない」と法廷に立つ。

「学校のチャイムを聞くと目の前が真っ暗になる。被害時の光景が頭の中で繰り返し再生されることも」

4月、大阪地裁で行われた本人尋問で女性は辛い日々を明かした。女性は被害から23年後にPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症、今も苦しんでいる。

訴状などによると、女性と教員は、書道部の部長と顧問という関係。敬意や信頼は突然裏切られた。

「作品を書くのを見せてあげる」と誘われ、訪れた教員宅で身体を触られた上にキスをされた。その後、部の合宿などでも同様の行為は続いた。「認められた」「付き合っている」。混乱する感情を押さえ込もうと、自らにそう言い聞かせるしかなかった。

20歳ごろから鬱症状で自殺未遂を繰り返した。30代になり、記憶の奥底にいる「みじめな自分」を直視するようになると、PTSDを発症。それでも「やっと一歩踏み出せた」と前を向き、2年前に提訴した。

新法では、教員と生徒間の上下関係を踏まえ、教員からの性的行為は、恋愛感情の有無に関係なく性暴力に当たると定める。

ただ今回のように教員の賠償責任を問うケースでは訴訟の争点として、今後も恋愛感情の有無が問われる可能性はある。それを考えると、「教員による性暴力の本質が社会に知られていない」と改めて感じるという。

裁判では、行為を目撃した書道部員から相談を受けたという女性教員が当時の様子を証言。被告の教員は女性を自宅に招いたことは認めたが、行為は一切否定し、主張は対立している。

■身近な子が被害 専門医に相談を

身内の子供や、受け持つ児童生徒が性暴力被害を受けたと感じたら、どう対応すればよいのか。

被害者支援に詳しい武庫川女子大の大岡由佳准教授(保健福祉)によると、そうした経験は心の傷となって「トラウマ反応」を引き起こす場合がある。頭痛や過呼吸といった目に見えやすい症状のほか、自己嫌悪や自信喪失などの影響が表れるという。早期治療が有効だが、児童生徒が被害を訴え出ることは難しいことに加え、受けた行為が「性暴力」に当たるとの認識が乏しく、後になって被害を認識することも多い。

通っていた札幌市内の中学校の教員からわいせつな行為をされ、約25年後の平成28年に被害を訴え出た石田郁子さんらが、令和2年に行った調査では、被害から6〜10年後に認識できたという人が最も多かった。

周りの大人の対応について、大岡准教授は、トラウマ反応について理解する▽反応に気づく▽思い出すような事柄を回避できるよう配慮する−ことを挙げ、異変を感じたら「相談窓口の『ワンストップ支援センター』などを活用し、子供を早く専門医につないでもらいたい」と訴える。(西山瑞穂、地主明世)

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