「夢を食い物に学校は肥え太る」鎖で拘束の日本語学校、元職員が語った“歪んだ留学生ビジネス”
RKB毎日放送 2022/9/13(火) 17:01配信
「エージェントに学費をキックバックする」「入管の評価があるので転校は許さない」これらは複数の元職員が語った“拘束事件”の舞台となった日本語学校(福岡市南区)の実態だ。教員が学生を鎖でつないで監視するという前代未聞の人権侵害の背景には、増え続ける留学生とそれを商機にした激しい「囲い込み戦略」があったようだ。
将来の“高度人材”として日本に渡った留学生たち。事件をきっかけに彼らの夢を食い物にする留学生ビジネスの歪みが浮かび上がった。
氷山の一角か「ほかにも人権侵害、見せしめ必要」
「日本に憧れをもった留学生を夢を食い物にしている。彼らの夢を食い物にして学校は肥え太っていく。名ばかりの教育機関です」RKBの取材にこう証言したのは、日本語学校の元職員だ。彼は福岡市南区にある西日本国際教育学院に勤めていた。去年10月、ベトナム人留学生のチャン・マウ・ホアンさんが南京錠や鎖で拘束された学校だ。
拘束事件について見解を尋ねると元職員は「これまでにも人権侵害とみられる行為が繰り返されてきた」と語った。
元職員「学生が問題を起こして、それを甘い処分で済ませてしまうと、同じような問題を起こすものが2人、3人と出てきてしまう。それを防ぐには見せしめというものを作る必要がある。強制帰国対応というのは何度も見たこともあるし、私自身もそれに加わったことはありますので、学生が逃げないように、飛行機に最後乗せて帰るわけですから、その前日のうちから学校にある一室に監禁しておくと、逃げないように監視しておくとそういったことはしておりました」
留学生問題の専門家は、こうした人権侵害は西日本国際教育学院に限らずほかの学校でも起きており、「氷山の一角に過ぎない」と指摘する。
明治大学根橋玲子教授「パスポートを取り上げるとか、在留資格を切り替えて働きたい学生にそれを許さず大金の違約金を払えと迫るなどの事例を聞きます。単にひとつの学校の問題ではなくて、構造的な問題もあると思います。日本の受け入れの体制も含めて根が深く、いろいろなところに影響している問題です」
“30万人計画”で留学生が激増、その影で・・・
2008年に日本政府が打ち出した「留学生30万人計画」。「高度人材」の育成の名の下に留学ビザの発給要件が緩和されたことなどから、日本語学校は主にアジアの学生を勧誘するようになった。
元職員「現地にはリクルート(勧誘)をしてくれるエージェントがたくさんいるんです。ここの学校だったらビザの発給の許可率がいい。ここの学校に申し込めばまず通るよと。そこに西日本国際教育学院の名前があったんです。学生が入ってきたら、エージェントに対して(学生から)もらった学費からキックバックします」
留学ビザの発給要件が緩和されたことをきっかけに日本への留学生は飛躍的に増えた。新型コロナが流行する前の2019年には31万人を突破した一方で、出稼ぎ目的で来た留学生の失踪や不法残留などが全国的に問題となった。元職員によると、西日本国際教育学院は生徒数を維持するために学生を厳しく管理するようになったという。
入管の目を気にして「転校は許さない」
元職員「転校したいという学生がいましたけど、基本的には許さないですね。授業料の分で損失というのももちろんあると思います。ただ、もう1つは転校してしまうとやはり入管に対して覚えがよくない。退学者や転校者が後を絶たないということになると、ビザの発給率にも影響してくると。そういった懸念があるからだと思います」
また、元職員や留学生からは、系列の専門学校への「内部進学」強いられたという声も聞かれた。西日本国際教育学院を運営する学校法人の宮田学園は、系列校として同じように外国人留学生を受け入れる「国際貢献専門大学校」を2014年に開設している。
日本語学校で学んだ留学生は通常、進学先や就職先を自由に選べる。出入国在留管理庁も内部進学を強要することを違反行為と定めている。しかし、国際貢献専門大学校の在校生や卒業生が語った実態はそうではなかった。
徹底した囲い込みの傍らで“学級崩壊”
専門学校の卒業生「別の学校に進学すると言ってもダメですと言ってました。願書を送ってもらえなかったり、もし不合格になったら知らないよ?って今度こっちに入ることができないよ?って。そういう風に不合格になった子は今度入る時に学費が高かったりとか、実際友達が高い学費を払ったこともあるので、怖くて行きませんでした」
その専門学校では「学級崩壊」が起きていた。関係者が数年前に撮影した授業の動画には、居眠りをしている学生やトランプに興じる学生が映っている。この動画をRKBに提供した元職員は「留学生の自由を奪うような強制的な内部進学によって、教育の質が悪化した」と話した。
さらに、電話取材に応じた別の元職員は、学校法人の経営体質そのものを問題視する。
教員が経営陣から“恫喝”されていた疑いも
別の元職員「ほかの学校を希望するのを許してしまう担任の先生は“悪”とみなされて(経営陣から)すごく恫喝されたりして、学生と学校の板挟みで可哀想な感じがしましたね。恫喝されて怒鳴られて、退職する方があまりにも多くてですね。毎日、精神的に追い詰められている職員さんが多かったと思います」
元職員たちの告発について学校側に聞くも歯切れの悪い答えが返ってきた。
学校法人の代理人弁護士「過去のことは分からないが、現在は内部進学を強制していない。経営陣によるパワハラなどが行われていたかは分からないが、職員が短期間で辞めていたのは認識している」
証言で浮かび上がった“歪み”
西日本国際教育学院で学ぶ留学生たちは、日本の産業を支える高度人材としての活躍を期待され来日したはずだ。しかし、南京錠と鎖でつながれたチャンさんが直面した現実は、想像とはかけ離れたものだった。
チャンさん「鎖をつなげられたあと、私がトイレに行きたくても行かせてくれず、先生に服をつかまれて引っ張られました。人間なのに動物みたいな扱いをされて本当に苦しかったです。私の人権はすべてなくなってしまったと思いました」
業績を維持するため、学生をつなぎとめるためだったのだろうか。しかし、本当に鎖でつないでしまったのだから世も末だ。被害本人のチャンさんや元職員の証言で浮かび上がったのは、目先の学生数にとらわれ学生の幸せや教育の理念を忘れた「留学生ビジネス」だった。そこで生じている大きな歪みに学生だけでなく職員もまたのまれている。