年間200人も処分される「わいせつ教員」、新法施行で本当に根絶できるのか

年間200人も処分される「わいせつ教員」、新法施行で本当に根絶できるのか
JBpress 2022/9/18(日) 9:01配信

■ 後を絶たない「わいせつ教員」

 学校教員のわいせつ事件が後を絶たない。最近の報道事例をピックアップしてみよう。

 非常勤講師から教頭までさまざまな立場の教員が、学校内や公共施設内、路上など至る所で自らの欲望のままに生徒らにわいせつ行為を行っていた。あきれてモノも言えないが、事態は極めて深刻だ。わいせつ事件を起こしているのは教員だけでなく、塾講師、保育士などにも広がっている。子どもたちは性被害の危機に日常的にさらされているといっても過言ではない状況になっているのだ。

 教育現場におけるわいせつの実態の一部は文部科学省の「公立学校教職員の人事行政状況調査について(概要)」という報告書からうかがえる。令和2年度に「性犯罪・性暴力等により懲戒処分等を受けた者は200人(0.02%)。令和元年度は273人(0.03%)」となっている。

 懲戒処分の内訳は、免職113人、停職45人、減給17人、戒告3人で計178人。残り22人は訓告等だ。

■ 性犯罪・性暴力の「ひどい内容」

 事案を詳しく見てみよう。被処分者のうち男性が196人と圧倒的で、女性は4人。年代別では20代54人、30代58人、40代35人、50代以上53人で、30代が最も多いが、大ベテランの50代以上が4分の1強を占めている。教員のなかでも模範となるべき存在ではないのか。

 処分を受けた教員が所属していた学校は、中学校74人(37%)、小学校64人(32%)、高校53人(26.5%)など。小中学校の教員が7割近くを占めている。

 性犯罪・性暴力等の被害者でもっとも多いのは「自校の生徒(18歳以上の者を含む)」65人(32%)で、次が「18歳未満の者」39人(19%)、さらに「自校の教職員」35人(18%)など。全体の半数以上が「自校」となっている。

 このほか、性犯罪等が行われた場所をみると「教室」29人(14.5%)、「保健室、生徒指導室等」25人(12.5%)、「運動場、体育館、プール等」7人(3.5%)、「職員室」5人(2.5%)と、教育現場であるはずの学校敷地内が66人(33%)と全体の3分の1を占めている。

 性犯罪等の内容は、「体に触る68人」(34%)、「性交40人」(20%)、「盗撮・のぞき」35人(17.5%)など。5人に1人は、相手の属性は不明だが、性交まで行っているのだ。

■ 事件化していないケースも多い

 この報告書を見ただけでもあまりにもひどい状況が分かるが、一連の調査結果の中に気になるものがあった。「刑事告発の状況」である。

 「告発した、または刑事手続きが取られている、捜査機関が情報を把握している」は103件で全体の約半数しかない。「被害者や保護者が望まなかったため告発しなかった」が39件(19.5%)、「犯罪には当たらないと判断したため告発しなかった」30件(15%)など、事件化していないケースが結構あるのだ。

 性犯罪に巻き込まれたことを公にしたくないなどの被害者心理が働いていると思われるが、その結果、加害教員は刑事罰という重い社会的制裁を免れているのだ。これは見逃せない問題である。文科省の調査結果はあくまで公立学校を対象としたもので、私立学校は含まれていない。日本社会全体でみれば被害実態がさらに拡大していることは間違いない。

 また教育委員会の公表においては、懲戒免職にもかかわらず、被害児童生徒への配慮から処分を受けた教員の氏名や学校名は伏せられている。事件化して報道されなければ、匿名のままである。結果的に加害者に甘い措置となっている。

■ 3年後の免許再取得は見直されたが・・・

 教員のわいせつ事件は以前から繰り返し問題化されてきた。それでも加害教員数は高止まりしているのが現状だ。しかも、わいせつなどで懲戒免職となっても3年後には免許を再取得できるという“抜け穴”の存在が指摘されてきた。

 そこで国もようやく重い腰を上げ、国会で「教育職員等による児童生徒性暴力防止法」が成立し、今年4月から施行された。「児童生徒性暴力等」の定義を明らかにし、児童生徒らに対する性交、わいせつ行為のほか、性的羞恥心を害する言動なども性暴力等に当たるとし、同意の有無に関わらず禁止した。今さらである。

 問題視されていた「3年後の免許再取得」に関しては、懲戒免職となった場合、再交付の可否は各都道府県教委が設置する「免許状再授与審査会」が判断することになった。

 文科省の指針によると、再交付の申請には更生を証明する資料を提出することが必要となり、さらに審査会の全会一致の賛成が必要となる。国が再交付の可否を各都道府県教委の審査会に丸投げした格好で、実効性は審査会の運用、判断次第ということだ。再犯防止に向けた態勢づくりという面では前進したことは間違いないが、完全な抑止力となるかは微妙なところである。

■ 「日本版DBS」の実効性は? 

 そこで政府内に新たな動きが出てきている。性犯罪歴のある人が保育や教育など子どもに接する仕事につけないようにする「無犯罪証明書」制度の検討である。英国で実施されている制度を念頭に置いたものだ。日本版DBS(前歴開示及び前歴者就業制限機構)と呼ばれ、2023年度に新設される「こども家庭庁」の目玉政策とされている。学習塾やスポーツクラブ、ベビーシッターサービスなど多岐にわたる業種に網をかぶせようというものだ。

 本家の英国では2012年にDBSが内務省の管轄下で開設された。子どもとかかわる仕事の雇用主がDBSに就職希望者の犯歴証明(無犯罪証明)を照会し、DBSは就職希望者に証明書を送付。就職希望者は雇用主に証明書を提出する。

 日本版DBS構想をめぐっては、「人権への懸念をぬぐえるか」といった新聞社説が登場するなど、慎重な運用を求める声が出ている。

 〈被害を防止する効果が期待される半面、人権やプライバシーの観点から「刑を終えた加害者の更生を妨げる」との懸念も出ている〉(地方紙の社説の一部)

 児童生徒への性犯罪防止と過去の加害者の人権問題のどちらに重点を置くのか。性犯罪者の再犯率なども考慮し、理性的で実効性のある運用をめざしてほしいものである。

■ 再発防止ではなく根絶しなければならない

 さて、ここまでの対策はあくまでわいせつ教員による事件再発防止を視野に入れたものである。問題はそれだけではない。子どもへの性犯罪・性暴力は再発防止は当たり前で、本来は根絶が求められているはずだ。そのためにはどうしたらいいのか。冒頭で示した性犯罪・性暴力等で懲戒処分等を受けた200人の内訳にいま一度注目したい。

 強制性交など性犯罪・性暴力(セクハラを除く)で処分されたのは20代が48人で最多。次いで30代が42人となっているが、50代以上も22人いる。若手教員だけではないのである。過去には校長によるわいせつ事件も報道されている。

 たしかに絶対数だけ見れば200人というのは約87万人の公立校教育職員の0.02%に過ぎないかもしれないが、あらゆる世代の教員、全国47都道府県中42都道府県の教員が処分を受けている現実をどう受け止めたらいいのか。しかも、毎年のように繰り返されているのだ。

 加害教員の再就職を阻むだけでは問題解決にならないことは明白だ。被害を受けた児童、生徒の心身の傷は深い。一生付きまとうケースも少なくない。この問題は被害者の側に立った抜本的な対策が必要不可欠だ。

 現在、教育現場では児童生徒への性暴力等を予防するため以下のような取り組みが行われている。

 (1)SNS等による私的なやり取りの禁止
(2)児童生徒性暴力等の実態把握の方法、相談窓口の設置
(3)児童生徒性暴力等の防止に係る研修の工夫
(4)その他の取組(執務環境の見直しによる密室状態の回避など)

 しかし、その詳細をみると、(2)関連の「教員や児童生徒へのアンケートの定期的な実施」は都道府県レベルでは実施率は36.2%。「児童生徒性暴力等の実態把握について、市区町村教育委員会へ促している(都道府県のみ)」は29.8%に過ぎない。教育現場での性犯罪等がこれだけ問題になっているのに、十分な対策が取られているとは言い難いのが現状だ。

 繰り返すが、教員の性犯罪・性暴力は、再発防止ではなく“根絶”しなければならないテーマである。形だけの新法や再犯防止制度を導入したところで根本的な解決にはならない。学校現場のドラスチックな改革をどう行うのか。教員の意識改革をどう進めるのか。解決策を見いだせなかった既存の枠組みを超えた取り組みが急務だろう。

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