「まだ殴られた方がマシだった」 子どもたちを精神的に追い詰める“ブラック部活” 体罰にかわるパワハラ指導への対策は?

「まだ殴られた方がマシだった」 子どもたちを精神的に追い詰める“ブラック部活” 体罰にかわるパワハラ指導への対策は?
国内
TBS NEWS DIG 2023年2月4日(土) 09:00
報道特集 川上敬二郎

部活の時間が極端に長く、週末には対外試合を詰め込む。「必要ない!」「使えない!」といった暴言を浴びせかける。部活顧問による暴力が禁止される中、子どもたちを精神的に追い詰める“ブラック部活”が大きな問題になっています。さんも、遺書に部活顧問の教員から度重なる叱責を受けたと記していました。背景に何があり、どんな対策が必要なのでしょうか。

“罰走”に人格否定… “パワハラ指導”の新傾向

「日本バスケットボール協会」が2021年、12歳以下の選手の保護者約9300人を対象にアンケート調査を実施したところ、指導者の「暴言がある」との回答が30.6%に上りました。問題のある言動や行動があった場合、改善を訴えやすいかどうかについては、5割が「訴えられない」と回答しました。

殴る蹴るではなく…“罰走”や“精神的な痛み”を与える指導…。暴力が禁止される中、ブラック部活の中身は変化しているといいます。この問題に詳しい日本体育大学・南部さおり教授に現状と対策を聞きました。

ーー最近のブラック部活の傾向は?

目に見える体罰が減ってきたかわりに、体を痛めつけるような指導が増える傾向にあります。

例えば罰走です。試合で負けたからとグラウンドを何十周も追加で走らせることで痛みを与える方法等に変わってきたと思います。それから精神的に痛めつける言葉を投げかけることも目立っています。

日体大の教え子も、中高生の頃を振り返って「まだ殴られた方がマシだった」と言うのですね。つまり生徒も殴られるよりも人格否定をされたり、傷つく言葉を言われたりする方がこたえる。それを顧問も気づいているがゆえに体罰ではなく、あえて言葉でいじめ抜くことをやっているのです。

ーー暴力が禁止されても、なぜ顧問の教員は別の形で“ブラック部活”を続けてしまうのでしょうか?

教員からすれば様々な期待がかけられているのに結果が残せないと、「自分はここまで頑張って指導しているのに、どうしてお前らはこんなふがいない結果しか出せないんだ!」と八つ当たりのような厳しい指導をすることは十分にあると思います。

部活動の顧問は、ボランティア的な要素が非常に強いので、例えば家庭生活を犠牲にしてまで生徒たちの試合や練習につき合っている。犠牲を払っているのに結果が出せなければ、非常に悔しいというか、八つ当たりしてしまうのはあり得ると思います。

ーーなくならない「ブラック部活」。不適切指導を続けてしまう背景には何があるのでしょうか?

まず挙げたいのは勝利至上主義が根強く残る学校の存在です。部活動で強い学校はそれなりに名前も売れたり、受験者の獲得にも繋がったりします。部活動が強いと、地域でも“健全な学校”というイメージがつきます。

他には、顧問が生徒だった際に受けたパワハラ指導を繰り返してしまう「世代間連鎖」があります。顧問が“体罰は効果がすぐに出る”と思い込んでしまっている問題もあります。顧問が部活動を好きなあまりに子どもたちに熱さを押し売りしてしまうという問題もあります。

いわゆるモンスターペアレンツなど、保護者の過剰な期待も大きいですね。例えば「うちの子は勉強が全然できないけど、スポーツなら得意だから何とか部活で結果を残させ、進学や就職等に有利になってほしい」と願い、顧問にプレッシャーをかけるというようなケースです。

見直すべき中高生の全国大会

ーー大人たちが部活動に過剰に期待してしまう。ここには構造的な問題もあるのでしょうか?

全国大会とか夢の舞台が用意されているというのはすごく大きいと思います。大きな大会で成績を残すことが生徒・学校・保護者のためにもなるという考えから、どんどん推し進められていくことがあると思います。

その意味で、あえて私の個人的な意見として踏み込んだことを言いますと、中高生の全国大会はなくしていく方向が望ましいと思います。都道府県の大会までの規模で行い、「負ければ終わり」のトーナメント方式ではなくリーグ戦方式で、無理のない日程を組むようにするのがいいと思います。

トーナメント方式だとどうしても勝ち進まなければならないため、エース選手に無理をさせてしまい、結果として故障して選手としての途を絶たれるというケースはこれまでにいくつも耳にしてきました。また、大事な局面でミスをした選手を指導者が精神的に追い込み、部に居づらくさせたり、トラウマや死にまで追い込むような事例も出ています。

リーグ方式であれば、対戦校のレベルに応じて出場選手を入れ替えるなど、できるだけ全員に出場機会が与えられるようなチーム作りもできるのではないでしょうか。

都道府県の人口規模が大きい場合にはブロック分けをして、無理のない試合日程で行うことも必要でしょう。

“ブラック部活”をなくすために

ーー“ブラック部活”予防のために、部活顧問はどう変わるべきでしょうか?

顧問たちには、もっと広い視野を持ってほしいです。例えばスパルタ的な指導は、選手の芽を摘んでしまいます。部員がつらい思いをして、何とか3年間やり抜いたとしても、次のステージでは「もう苦しい思いをしたくない」と競技をやめるケースが非常に多いのです。

一方、海外の指導者は、例えば中学生なら「中学時代はこれからの長いスポーツ生活の中で通過点に過ぎないのだから元気に送り出してやろう」という気持ちで育てるので、決して無理をさせないように、その世代に応じたやり方でのびのびと競技に打ち込むことのできる環境を整えるんですね。

しかし日本の指導者は、どうしても3年間で結果を出してやらなければならないと考えてしまう。どうしてもこの大会で勝利を味あわせてやらなければならないと、目の前の成績ばかりにとらわれてしまうので、無理な指導になってしまう面があると思います。

オープンにすべき部活動の空間

ーー学校の校長や教頭は「ブラック部活」にならないよう、どう管理すべきでしょうか?

部活動を閉鎖空間にしないよう常にオープンにして、例えば保護者も地域の人も見に来ていいとか、他の学校の指導者や部員たちも自由に見学していいとか、オープンな環境にすべきだと思います。

逆に、指導者もどんどん他の学校に行って、他の指導者の指導の仕方を見学するような機会を増やすといいと思います。オープンにすることで指導者同士の学び合いも生まれます。他校の人々や地域の人たちとの交流もできるようになると思います。

たくさんの目にさらされると、“襟を正さなければ”と自覚せざるを得なくなります。これからの部活動は、地域に開く、どんどん開かれた場になっていく必要があります。その第一歩として、例えば校長や教頭など管理職が部活動をしょっちゅう見に行く。それから他の学校の校長先生や先生が見学する。そうした機会をたくさん設ける工夫もあったらいいと思います。

ーー「ブラック部活」解消のために国に求めたいことは?

もう少しスポーツ教育の分野にもお金をかけるべきです。人材も集まります。いい指導者が残ります。そうなると、悪い指導者は淘汰されていきます。

どうしても学校の先生が手弁当で、家庭を犠牲にしてまで無理して指導している構造では、指導のあり方が、ここまでやってるんだからということで、非常に独裁的な体制が作られやすいのですね。ボランティアでお願いしているのだから、多少おかしな指導をしていても、管理職も文句が言えなくなる。

だから、きちんとした報酬を与える。その代わりに、きちんとした科学的な指導をやりなさい、という形で強く言えるようにするのが大事じゃないかと思います。

(2023年1月14日放送『報道特集』「ブラック部活はなぜ続く?」より)

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