疑問だらけ文科省の教科書検定 最大手「東京書籍」で1200カ所大量訂正 かたや「一発不合格」の教科書も 自民・中田氏「検定の意味、信頼が問われる」
夕刊フジ 2023/3/7(火) 17:00配信
文部科学省の教科書検定に不信感が募っている。検定で合格し、2022年度から全国の高校で使われていた教科書会社最大手「東京書籍」の地図の教科書に、何と約1200カ所もの大量訂正が行われていたのだ。一方、「新しい歴史教科書をつくる会」が主導する「自由社」の歴史教科書には19年度、計405件の検定意見が付けられ「一発不合格」になっていた。日本の将来を担う子供たちが使う教科書は大丈夫なのか。文科省は「検定手続き自体は適切に行われた」と主張しているが、ダブルスタンダード(二重基準)にも見える。国会でも「検定の意味が問われる」と取り上げられた。
「石川県の松任という土地(の所在)が『富山県』になっていたり、チリの首都サンティアゴが『アルゼンチン』になっていた。見開きの1ページ目だけで4カ所の訂正がある。この教科書で勉強していたら子供たちはどうなりますか? 誤字脱字のレベルではない。本質的な間違いが50カ所もある」
自民党の中田宏参院議員は3日の予算委員会で、昨年4月から全国の高校1年生が使用している東京書籍の「新高等地図」の大量訂正を、こう問題視した。
前代未聞の不祥事について、東京書籍は「最終版の校閲作業のスケジュールが押した。コロナ禍での在宅勤務でコミュニケーションが取れなかった」と説明・謝罪しているが、教科書会社の言い分として理解困難だ。すでに約3万6000冊が供給されているが、1月から訂正済みの2万6000冊以上を再配布したという。
問題は教科書会社のミスだけではない。「新高等地図」が、2020年度の文科省の教科書検定で合格していることだ。
教科書検定とは、民間で著作・編集された図書について、文科相が教科書として適切か否かを審査し、これに合格したものを教科書として使用することを認める制度だ。現実には、文科省の調査官が審査を行っている。
中田議員は先の予算委員会で、「新高等地図」の検定で文科省の調査官が付けた検定意見は「20カ所」にとどまっていたのに対し、19年度の検定では自由社の中学校の歴史教科書に「405カ所の意見がついて『一発不合格』になっている」と指摘した。検定合格後に約1200カ所の訂正が許された今回と比較し、「検定の意味、信頼が問われる」とも質した。
岸田文雄首相は「教科書の信頼確保のため、審査体制をはじめとして制度の不断の改善をはかりながら適切に検定が運用されることが非常に重要だ」と述べたが、文科省の姿勢は疑問だ。
永岡桂子文科相は2月21日の記者会見で、「訂正が供給後の対応となったことは、大変遺憾」としながらも、「訂正箇所の多さが、検定の不適切さを示すものではないと考えている」「検定手続き自体は適切に行われ、最終的な検定決定が行われた」と強調した。
これに収まらないのは、教科書検定で「一発不合格」となった自由社側だ。
自虐史観からの脱却を図った自由社の歴史教科書の執筆にもかかわった「新しい歴史教科書をつくる会」副会長の藤岡信勝氏は「調査官の恣意(しい)により、いくらでもさじ加減が可能で、大手の教科書会社には忖度(そんたく)をするなど、不正の温床になっているのではないか」と、現在の教科書検定に疑問を呈した。
東京書籍は今回、教科書の供給後に大量の「訂正申請」を行ったが、藤岡氏は「同様の事後修正は初めてではない」と話し、19年度の検定でも、供給前の段階だが、他社が行っていたという。
■つくる会「文科省説明は破綻」
当時の検定では、ページ数の1・2倍以上の「検定意見」が付いた場合は、同じ年度内に再申請ができなくなる「一発不合格」のルールが初適用された。自由社には総ページ数の約1・3倍にあたる405件の意見がつき、不合格とされた。
このとき、同じく教科書の検定申請をしていたA社には38件、B社には24件の検定意見がつけられたが、つくる会が情報開示請求を行って独自調査をした結果、合格後から21年度の4月に生徒の手に教科書が渡るまでの間に、A社は700件、B社も564件と、自由社の「検定意見」数をはるかに上回る「訂正申請」を行っていたことが分かったという。
こうした問題提起について、文科省の担当者は「『検定意見』は学術的な基準から誤りであるものに付される意見で、検定後の『訂正申請』はより分かりやすい記述にするための改善など。別の制度で、数の比較は意味がない」と語った。
ただ、東京書籍は、南米の「ドレーク海峡」を「マゼラン海峡」と誤記して事後修正している。
文科省の担当者は「訂正申請では誤記を直すことも幅広く対象になる」といい、自由社の歴史教科書には索引にも検定意見が付いたことには、「そういう場合もある」と説明した。
自由社は現在、歴史教科書の「一発不合格」について文科省を相手取った国家賠償請求訴訟をしている。
つくる会は、東京書籍の大量訂正について、文科省が「検定手続きは適切に行われた」とする見解は「説明が破綻している」として、永岡文科相に2月27日、公開質問状を提出した。今月9日までの回答を求めている。