京都工芸繊維大副学長、論文5本に「自己盗用」の疑い 複数社が調査

京都工芸繊維大副学長、論文5本に「自己盗用」の疑い 複数社が調査
毎日新聞 2023/10/17(火) 17:00配信

 京都工芸繊維大(京都市)の副学長が著者を務めた学術論文5本に、研究グループとして過去に発表した成果を適切に引用せず使い回す「自己盗用」があった疑いのあることが、毎日新聞の取材で判明した。論文を掲載した海外の複数の出版社編集部は調査を開始。副学長はこのうち1本について出版社に訂正を依頼したという。

 学術論文には新規性のある未発表の内容を盛り込むことが重視される。自身の研究成果であっても、過去に発表済みのものを適切な引用なく再び発表することは「自己盗用」や「二重投稿」と呼ばれ、研究業績の水増しにつながる不正行為とされている。

 毎日新聞は研究者の協力を得て、副学長が著者を務めた2000〜06年の論文を調べた。論文の類似度をチェックするソフト「iThenticate(アイセンティケイト)」を使い、論文の内容の類似率を計測した。

 06年に米学術出版大手ワイリーが発行する学術誌に掲載された論文は、05年に日本の応用物理学会の学術誌に掲載された「半導体合金のエックス線測定」に関する論文と大半が同じ文章で、引用のない図表の使い回しもあり、類似率は60%に上った。

 英学術出版大手シュプリンガー・ネイチャーの学術誌編集者ら向けの目安によると、類似率が1〜5%なら「基本的に盗用の疑いなし」▽10%以上なら「類似内容の確認を推奨」▽20%以上なら「類似内容を注意して確認することを推奨」――としている。

 副学長は取材に、8月下旬に学術誌側から指摘を受け、06年論文の訂正を依頼したと明らかにし、「自グループの先行論文の引用をしないというミスをした。共著者として確認不足を反省している」と回答した。

 他に4本の論文でも過去の論文と類似がみられた。06年に米学術誌に載った別の論文は、05年に発表した合金生成に関する論文の図表を不適切に転用するなどし、類似率は39%だった。また、02年にオランダや日本の学術誌に載った論文3本は、01〜02年にスイスや日本の学術誌に載った論文3本の図表を不適切に転用した疑いがあり、類似率は最大34%だった。

 論文を載せた海外の出版社は「編集部で調査中」「問題を調査し必要な措置を講じる」と答えた。一方、副学長は4本について、学会が推奨する方法で投稿したなどと説明し、「不適切行為と認定されるような問題はない」と主張した。

 大学の研究倫理教育に携わる市田秀樹・大阪公立大准教授(工学)は「適切な引用がない論文が多く、自己盗用を疑われる可能性が高い。結果的に不適切な業績の水増しとも見える。こうしたことが起こると適切に研究者を評価できなくなってしまう」と話した。

 ◇自己盗用は「業績の水増し」に

 京都工芸繊維大の副学長の論文に、自らの研究グループによる過去の成果を適切な引用なく使い回す「自己盗用」があった疑いが発覚した。自分の業績なのに、こうした行為はなぜ研究不正とみなされるのだろうか。

 論文は、他の学術誌にまだ発表していない内容を盛り込む「新規性」が重視される。同じ著者が、既に発表済みの論文の内容、図表、現在投稿中の成果を無断で別の媒体に発表することは、新規性を二重に主張することになり許されていない。論文は研究者の業績として数えられる。二重投稿や自己盗用は「業績の水増し」と見なされるのだ。

 そのため、研究者は論文中で過去の論文を引用していることを明記した上で、新規の研究成果を積み上げることが求められる。

 加えて、掲載済みの論文は出版社側に著作権が移る場合が多い。著作権侵害を避けるためにも、自らの論文であっても引用の明記は必要になる。

 文部科学省は2022年、「研究機関で二重投稿などの不正認定が増えている」などとして、研究機関に二重投稿の定義や規定の整備などを求める通知を出した。今年7月には、会津大(福島県会津若松市)の理事長兼学長(当時)が論文8本に二重投稿や自己盗用があったと学内調査で認定され、辞任している。

 山崎茂明・愛知淑徳大名誉教授の著書「科学者の不正行為」によると、郵便が未発達で国際的に流通する学術誌が少なかった19世紀以前は、研究成果ができるだけ多くの人の目に触れるよう複数の学術誌に発表することが望ましいと考えられていた。日本でも日本語の論文を外国語に翻訳して発表することは許容されていた。だが20世紀後半になり、情報流通システムが発展すると「オリジナルの論文を複数の学術誌に発表するのは誤り」との考えが一般的になったという。【鳥井真平】

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この大学、問題多いなあ

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