<大阪・高2自殺>「体罰です」顧問謝罪 通夜で母の問いに

<大阪・高2自殺>「体罰です」顧問謝罪 通夜で母の問いに
毎日新聞 2013年1月8日(火)21時2分配信

 「これは指導ですか。体罰ですか」。大阪市立桜宮高校2年の男子生徒(17)が、バスケットボール部の顧問の男性教諭(47)から体罰を受けた翌日に自殺した問題。生徒の母親は、通夜に参列した顧問に問いただした。高校が実施した部員へのアンケートでは、体罰が幅広く行われていた実態が浮かび上がったが、生徒のSOSは届かなかった。【三上健太郎、山田尚弘、大久保昂】

 通夜は先月24日、大阪府北部の寺院で営まれた。参列者によると、中学や高校時代の友人らが会場に入りきれないほど集まり、ほぼ全員が沈黙のまま生徒の死を悼んだという。

 「先生来てください」。父親のあいさつが終わった後、顧問は母親に呼ばれ、祭壇の前に立った。「(息子の)顔を見てやってください。体罰の痕が分かるでしょう。これは指導ですか。体罰ですか」。母親の問いかけに、顧問はその場で「体罰です。すいません」と謝り、母親は涙を流していたという。

 市教委によると、生徒は先月22日の練習試合で顧問から数回平手打ちを受けた。帰宅後、母親に「今日もかなり殴られた」と話していたという。23日に生徒が自殺した後、母親は生徒の頬が腫れ、唇が切れているのを確認したという。

 出身中学によると、生徒は中学時代、バスケットボール部の副主将を務め、スピードやドリブルでの突破力に定評があったという。中学時代の顧問の教諭は「バスケットが大好きな選手。プレーで引っ張るタイプでみんなから頼りにされていた」と振り返る。

 今回、高校が実施したアンケートでは自殺した生徒のほかにも体罰を受けた部員は21人に上った。11年9月には、顧問が体罰をしているとの匿名の通報が市に寄せられたが、市教委や同校は顧問への聞き取りだけで「体罰はない」と結論づけていた。

 顧問は8日から自宅謹慎しており、市教委は処分を検討している。

 ◇禁止規定、徹底されず 11年度404人処分

 文部科学省によると、11年度に全国の公立の小中高校や特別支援学校で児童・生徒への体罰を理由に処分を受けた教職員は404人。内訳は、小学校81人▽中学校180人▽高校139人▽特別支援学校4人−−で、高校では約3分の1が部活動に関連するケースだった。最近10年間は400人前後で推移し、大きくは減っていないのが現状だ。

 学校教育法では「教員は体罰を加えることはできない」と体罰禁止を明記している。文科省が07年2月に都道府県教委などに出した通知では、体罰に当たるケースとして、「殴る、蹴るなど身体への侵害」「肉体的苦痛を与えるような長時間の正座や直立」を例示。一方で▽授業中に教室内で起立させる▽学習課題や清掃活動を課す▽学校当番を多く割り当てる▽立ち歩きの多い児童・生徒をしかって席に着かせる−−などは「通常体罰には当たらない」との見解を示し、許容している。

 文科省児童生徒課は「体罰禁止の規定を知らない教職員はいないはずだが、実際の現場で徹底されていないケースがある。教職員への研修・指導を通じて徹底していく必要がある」と話している。

 94年には兵庫県龍野市(現たつの市)で当時小学6年の男子児童が担任教諭に頭と頬を手で数回たたかれた後に自殺。その後の裁判で体罰と自殺の因果関係が認定された深刻なケースもあった。

 この児童の父親で「全国学校事故・事件を語る会」の内海千春さん(53)=兵庫県たつの市=は「怒りやショックよりも、またかという感じだ。教師の体罰による子どもの自殺は、多くが表に出ないまま、なかったことにされている。何があったのか丁寧な実態解明なしに再発防止はできない。事実と向き合うことが、亡くなった生徒の命に向き合うことだ。学校や市教委は、彼が何を言いたかったのか代弁する側に立ってものを見てほしい」と話した。【平野光芳、林由紀子】

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