<大阪・高2自殺>体罰の暴走、止まらず 顧問の「王国」で

<大阪・高2自殺>体罰の暴走、止まらず 顧問の「王国」で
毎日新聞 2013年1月13日(日)11時23分配信

 大阪市立桜宮(さくらのみや)高校バスケットボール部主将の2年男子生徒(17)が顧問の男性教諭(47)から体罰を受けた翌日に自殺した問題では、この顧問はチームを何度もインターハイ出場に導き、熱血的な指導が評価されていた。その一方、日常的に体罰を繰り返した。生徒が追い詰められるまでに何があり、体罰は止められなかったのか。背景にスポーツ強豪校の閉鎖的な体質が浮かび上がる。

 3年生が引退した後の昨年9月、生徒は立候補して主将になった。顧問からリーダー論の本を借り、意欲を燃やしていた。だが12月に入り、両親は異変に気づく。同月18日、帰宅した生徒の口に血がついていた。「10発ぐらい殴られた」。練習試合でのミスを理由に平手でたたかれ、主将を続けるかどうか悩んでいた。

 翌日、母親が顧問に相談すると「主将は無理そうだ」と告げられた。自殺前日の22日の練習試合。「なぜボールに飛びつかない」「なぜ言ったことをやらない」。ビンタが飛んできた。生徒が練習後、教官室で「しんどい」と打ち明けると顧問にただされた。「何がしんどい。殴られることか」「主将を辞めるならBチーム(2軍)行きや」。生徒が続投を希望すると「殴られてもええねんな」と念押しされた。

 夜、帰宅した生徒は妙に明るい表情だった。「30〜40発殴られた。できない俺が悪い」。遺体が見つかったのは翌朝だった。

 桜宮高は五輪選手を輩出してきたスポーツ強豪校だ。顧問は94年度に採用され、男子バスケ部を19年間指導。部は目に見えて強くなり、過去5年間で3回インターハイに出場した。他校の監督は「王国のようなものを築いていたのでは」と話す。

 自殺前日、指導を手伝う講師2人が体罰を見たが、止めたり高校に報告したりしなかった。2人は顧問の教え子で「恩師に口出しできなかった」と市教委に説明。同校関係者は「顧問が推薦するOBらを講師に採用していた」と言う。

 市教委は同一校での勤務を原則10年までと定めるが、同校は職員42人のうち体育科を中心に13人が勤続10年超。元校長から何度も異動を勧められた顧問は「学校に貢献したい」として残留し続けた。

 大学にも顔が利いたという顧問。市教委の調査に「保護者から全国大会に連れて行ってほしい、大学進学の道筋をつけてほしいと期待されていた」と語った。

 同校では一昨年9月に体罰で停職処分を受けたバレーボール部顧問の男性教諭(35)が昨年11月に再び部員に体罰を加えていた。しかし校長は市教委にも、自殺を受けて開かれた保護者説明会でも隠蔽(いんぺい)。「若い教員に重い処分が下ることを案じた」と内向きの説明をした。この時、徹底調査していれば自殺は防げたのでは−−。報道陣にただされ、校長は「今回のことに結びつかなかったことは考えられる」と認めた。

 大阪府警はバスケ部顧問について暴行容疑で捜査し、目撃者の聴取などを進める方針。市も橋下徹市長直轄の外部監察チームが調査を進める。【津久井達、林由紀子、村上正】

 ◇処分の教職員は最近10年、400人前後で推移

 体罰は学校教育法で禁じられており、文部科学省は07年2月の通知で具体的な行為を挙げて体罰に当たるか例示した。それでも全国の公立小中高校などで体罰を理由に懲戒処分や戒告を受けた教職員は最近10年、400人前後で推移。なぜ体罰はなくならないのか。

 愛知県立大の望月彰教授(教育学)は「悪いことをしたら殴ってもよい」「痛い思いをさせ分からせよう」という風潮は根強いとみている。自身は「体罰をするのは指導力がないから」と考えているが「世論は必ずしも体罰に否定的ではないのでは」と語る。

 運動部ではそうした風潮が当たり前だったとするのはスポーツライターの渋谷淳さん(41)。バスケ部にいた中高時代、大会で選手がベンチで殴られる光景は「強豪校だと珍しくなかった」という。「体罰をやっている顧問がうわさになるぐらいだから、減ってきたと思う。まだ殴ってでも強くしてくれるならいいと思う生徒や親はいるかもしれないが、(今回の問題で)もう容認できないだろう」

 体罰の責任を法廷で問うケースは多くない。学校トラブルを手掛けてきた杉浦ひとみ弁護士(東京弁護士会)によると、体罰は閉鎖的な空間で起きるため証拠や証人を集めにくく、指導かどうかの争いになる。生徒側の立証ハードルは高い。

 熊本県で小学2年の男児が男性臨時教員から体罰を受けたと主張した訴訟で最高裁は09年、体罰を認めて賠償を命じた2審判決を破棄し、請求を棄却した。臨時教員は男児の胸元をつかんで体を壁に押し当て大声で叱ったが、これは悪ふざけを注意して男児に2度蹴られた後だった。最高裁は「指導のためで、罰として肉体的苦痛を与えるためではない」として体罰には当たらないと判断。杉浦弁護士は「最高裁の基準は不明確。拡大解釈が危惧される」と懸念している。【苅田伸宏】

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