「指導に体罰は不要」訴え サッカー本田選手の恩師、中学校を巡回

「指導に体罰は不要」訴え サッカー本田選手の恩師、中学校を巡回
産経新聞 2013年1月28日(月)15時11分配信

 ■死なせたらあかん

 大阪市立桜宮高校のバスケットボール部主将だった2年の男子生徒=当時(17)=が自殺した問題を受け、大阪府摂津市内で中学校のクラブ活動巡回を始めたサッカー指導者がいる。サッカー日本代表の本田圭佑選手の恩師で、現在は同市教委相談員を務める元中学教師、田中章博さん(61)。「死なせたらあかん。指導に体罰は不要だ」。クラブ顧問や子供たちに長年の指導で培った「信念」を伝えている。

 「悩んだらなんでも相談しいや。顧問に言いづらくても担任も保健の先生も、僕もいるんやから」

 22日午後、摂津市南千里丘にある市立第一中学校。田中さんは、練習中だった女子バスケットボール部員ら約10人と顧問を体育館のコートわきに集め、教師時代と変わらない優しい口調で語りかけた。

 桜宮高校の問題に心を痛めた田中さんは「たくましく生きることを教えているのに、死なせたらあかん」との思いが募り、21日から摂津市内の中学校の部活動の現場訪問を始めた。生徒らに声をかけ、顧問には「顧問である前に教師でいてほしい」「力の指導ではなく信頼を高めて」と訴えている。

 約38年間務めた中学教師時代はクラブ活動でサッカーを指導し、本田選手をはじめ、Jリーグ・ジュビロ磐田の森下仁志監督ら多くのプロサッカー選手を育てた。昨年まで関西サッカー協会の中学生担当委員長を務め、現在も市内の中学生サッカーチームで指導にあたっている。

 ただ、指導者になったばかりの20代の頃は「勝ち」にこだわるあまり、「無駄に子供を走らせたこともあった」と自戒を込めて振り返る。殴るような体罰こそしなかったものの、過剰に厳しい指導を続けていたという。

 だが昭和63年、36歳のときに転機が訪れる。東京五輪で日本代表チームを指導し「日本サッカーの父」とも呼ばれたドイツ人、デットマール・クラマー氏が講師を務める指導者向け研修会に参加。「指導者の勲章は勝つことではなく選手を育てること」と諭されたのだ。

 平成9年、市立第二中でサッカー部顧問をしていた頃、小学生だった本田選手は中学生の兄と一緒に部活動に参加していた。試合の勝ち負けより、自身のプレーの向上に力を入れる選手だった。「勝利だけにこだわっていた若い頃の自分だったら、つぶしていたかもしれない」と語る。

 本田選手は中学生だったガンバ大阪のジュニアユース時代、急速に体が大きくなり、伸び悩んだ時期もあったというが、当時のコーチから筋肉をつけ直すように指導を受けて高校時代に成長した。

 田中さんは「圭佑は挫折をはね返して才能を伸ばした。子供たちの成長をいかにフォローするかが指導者の仕事だ」と力を込める。

 田中さんは今後、各校のクラブ主将らを対象にした説明会や保護者への講演会も予定している。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする