几帳面な29歳女性教師が… ホテトル嬢になった“理由”と“収支決算”
産経新聞 2013年5月17日(金)17時27分配信
大阪府立高校の教壇に立つ29歳の女性教諭が、放課後にホテルヘルス(ホテヘル)嬢としてアルバイトに精を出していたことが発覚した。米国では過去にポルノ映画に出演していたことがバレて解雇された女性教諭もいたが、性風俗の最前線でバイトしていたという今回のケースは、国内では前代未聞の不祥事。府教委によると、買い物が過ぎてクレジットカードの支払いが滞り、さらに学生時代に受けていた奨学金の返済も重なったことが、「短時間で高収入」のバイトを始めたきっかけという。それにしても、なぜホテヘルだったのか。それは“先生”らしく理詰めで職を求めた結果だった。(平田雄介)
■女性教諭の肩が震えた
「なんか、報告することないか」。春休みが終わり、新学年を迎えた4月上旬の昼下がり、ある府立高で、校長立ち会いの下に行われた女性教諭への事情聴取は、府教委幹部のこの一言から始まった。
突然の呼び出しに怪訝(けげん)な表情を浮かべながら入室してきた女性教諭は、知らぬ顔を通した。
「いえ、別にありません」。何もやましいことなどない、とばかりに「しらばっくれた」(幹部)という女性教諭の反応を観察しつつ、手持ちの情報を少しずつぶつける幹部。そして、いよいよホテヘルの店名を切り出したとき、女性教諭の肩が震えた。
「とんでもないことをしました。申し訳ありません」と、観念した様子でホテヘル嬢としての副業を認めたという。
ホテヘルは、インターネットやビラなどを頼りに男性客が店舗へ出向き、指名した女性とホテルへ移動して性的サービスを受ける。全国的にみれば、過去にもホステスなど水商売のバイトで処分された教諭はいるが、今回は「性的サービス」をしていた点が際立っていた。
この女性教諭は昨年10月から今年4月までの105日間、放課後に大阪市内のホテヘル店で働き、計約160万円の収入を得たという。営利目的の副業を禁止した地方公務員法に違反している上、「著しく不適切で、信用を大きく失墜させた」として、停職6カ月の懲戒処分が下された。女性教諭は処分事実を認めた上で「生徒に申し訳ない」と述べ、5月2日付で依願退職したという。
■下着姿、挑発するポーズ
女性教諭がバレないと見込んだ風俗バイトが露見したのは今年3月中旬。府教委に届いた匿名の告発メールがきっかけだった。
「A高校のB先生が大阪市内のCホテルヘルスのD店で働いています。調査してください」。送り主が特定されないようフリーメールのアドレスから送信されていたが、女性教諭の氏名や勤務先の高校名、ホテヘルの店名が記載されていた。
「ほんまかいな」。担当者はにわかに信じられず、自宅のパソコンで家族に隠れてホテヘル店のホームページ(HP)を検索。告発の信憑性を見極めたという。
確かに店は実在しており、ホテヘル嬢の紹介ページには女性教諭らしき姿が…。顔をぼかした写真ながら、下着姿で挑発的なポーズを取っており、証拠としてページを印刷。そして、府教委による調査を開始したのだった。
■カードローン地獄?
なぜ、公立高校の教諭が禁止されている副業を、それも性風俗店で始めたのか。
「借金の返済に困っていたようです」。記者会見で、府教委幹部は苦渋の表情を浮かべながら動機について語り出した。
女性教諭は衣服や化粧品を買うのが好きだったという。普段の服装や化粧は派手ではなかったが、現金で支払えないほど購入する品数が多かった。2、3社のクレジットカードを使い回し、昨年10月には未払い金が200万円に達したという。
督促状が自宅に届くようになり、同居する家族に借金がバレるのを恐れた女性教諭はネットでこっそりバイトを探した。これが転落の始まりだった。
検索のキーワードは「短時間で高収入」。地方公務員法の副業禁止規定はもちろん認識しており、職場にも家族にもバレないことが条件だった。そんな条件をクリアできたと思い、たどり着いたのが、放課後に1、2人の客を取れば1日で1万円以上の収入を得られるホテヘルだった。
女性教諭は府教委の調査に「性風俗業は特定の客とだけ接すればよいので、多くの人に顔を見られずに済むと思った」と語ったという。先生らしく理詰めでホテヘルをバイト先に選んだことがうかがえるが、性風俗店で働くことに抵抗はなかったのだろうか。
府教委幹部は「抵抗はあったようだが、大学時代の奨学金の返済も抱え、切羽詰まっていたようだ」と明かした。
■几帳面な性格が「仇」
ホテヘルでのバイトを認めた女性教諭に対し、府教委は自宅謹慎を命じた上、事実関係を把握するために顛末書を提出するよう求め、さらに数回、事情聴取を重ねた。
几帳面な性格の女性教諭はバイトに出た日付と収入を詳細に控えており、事実関係の調査は思いのほかスムーズに進んだという。違法性の有無についても、バイト先が大阪府警に営業を届け出ていることを確認し、女性教諭から「売春防止法に触れる違法行為はなかった」という証言も取った。
だが、府教委の裏付け調査が十分だったとは言い難い。処分事実は女性教諭の説明を基に記述。府教委はバイト先の店とは一度も連絡を取らず、勤務実態を確認することもしなかった。
警察関係者によると、ホテヘル嬢は通常1日で2〜3万円の収入があるといい、「女性教諭は自己申告額の160万円より多くを稼いでいたはずで、借金も実際には数百万円あったのではないか」と指摘する。
■背景は闇の中
事実確認が進むと、今度は懲戒処分の“量刑”が議論された。
副業が発覚した場合の処分基準は戒告や減給処分とされているが、府教委は今回、再び教壇に立つことは許されないと判断し、退職を前提に話を進めた。
ただ懲戒免職は、基準より極めて重い処分となるため、違法ではない性風俗店で働く人に対する職業的差別につながることが懸念されたという。
解決策として府教委が導き出した答えが、事実上の退職勧奨を行って女性教諭が自ら依願退職を求めるよう仕向けることだった。
「で、どうすんねん?」。語気を強めて今後の身の振り方を尋ねる府教委幹部に対し、女性教諭が「辞めます」と答えたことで、依願退職を前提に「停職6カ月」の処分が決まったという。
別の幹部は「服や化粧品を買うために風俗バイトするなんて問題外だ」と怒りをぶちまけるが、なぜ女性教諭がカードローンを組んでまで大量の衣服や化粧品を買い続け、借金苦に陥ったのか、という根本的な理由は、府教委の調査では明らかになっていない。
いわゆる「買い物依存症」だったのか、職場の人間関係で悩みやストレスを抱えていのか。そもそもクレジットカードの利用の仕方がまずかったのか…。高校教諭による前代未聞の不祥事は原因不明のまま、幕引きされた。