消えぬ傷・消せぬ罪:県教委汚職から5年/上 「不正」の根拠、不透明 /大分

消えぬ傷・消せぬ罪:県教委汚職から5年/上 「不正」の根拠、不透明 /大分
毎日新聞 2013年6月14日(金)16時41分配信

 ◇元採用教員、訴訟も結審見えず
 県教員採用試験や昇任試験を巡り、金やコネに物をいわせた不正が横行していた実態が明らかとなった県教育委員会の汚職事件は14日で発覚から5年がたつ。既に刑事裁判は終結、県教委の調査も終わり、過去のものとなりつつあるかに見える。だが、事件に巻き込まれた人たちの傷はなお癒えず、教育への信頼を失墜させた罪も消えたわけではない。「全容解明」を求める訴訟も新たに提起されており、「事件」は今も続いている。【田中理知】
 今月7日朝、大分市立小学校のある学級で一つの新聞記事が話題になっていた。汚職事件で採用取り消しとなったのを不当として県を訴えた裁判を伝える記事に、自分たちの先生、秦(しん)聖一郎さん(27)の名前があったからだ。
 事件発覚当時、この子たちはまだ小学生になっていなかった。あれから5年、二つ目の学校に勤務し、「教師という仕事は楽しい」とつくづく感じている。
 秦さんは2008年4月に念願かなって小学校の教師としてスタートを切った。だが、最初の夏休みが明ける直前、人生は突如、暗転した。
 08年8月30日。秦さんは県教委から呼び出され、県公文書館に来ていた。薄暗い部屋には県教委幹部が待っていた。「報道などで不正、ご存じでしょう? あなたにも不正な加点があった」。幹部は点数が書かれた1枚の紙を示し、「点数が改ざんされている。自主退職してほしい。できなければ採用を取り消す」。納得がいかず、自主退職を拒むと、1週間後に採用は取り消された。
 秦さんはショックのあまり、学校を休んだ。秦さんの支えになったのは、当時の子どもたちからの励ましの手紙だった。臨時講師として再び教壇に戻り、09年3月に県に処分取り消しを求める訴訟を起こした。
 訴訟は4年目に突入したが、結審への道筋が見えない。県側が「不正」の具体的な根拠の提示を拒んでいるのが大きな壁になっている。
 県側は訴訟で「不正な加点で合格点に達しており、口利きがあったか否かは処分には関係ない」と主張している。これに対し、秦さん側の弁護士は「県教委の内部調査の正確性を検証する必要がある」と指摘する。だが、答案用紙はたった1年で破棄され、パソコンデータの提出も個人情報保護を理由に応じていない。不正の判断に至った過程が「ブラックボックス」となっており、検証不能になっている。

 20歳代の大半を事件に費やすことになった秦さん。「つらい。臨時講師では待遇が悪いので生活も厳しく将来が見通せない。好きな仕事だが、教師以外も考えなければ……」
 それでも裁判は続けるという。「子どもたちには『おかしいことはおかしい』と言える人間に育ってほしいから」
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 ◇県教委汚職事件
 教員採用試験、管理職昇進人事、昇任人事を巡り、県教委幹部や校長ら計6人が逮捕・起訴、教頭2人が在宅起訴され、全員の有罪が確定した。県教委は08年度の不正合格者21人の採用を取り消し、不正のあおりで不合格になった22人を救済採用。07年度試験の被害者22人も特別試験を経て救済された。幹部ら計28人が処分され、一連の刑事裁判では、県教委OBらによる口利きの横行が明らかになった。
6月14日朝刊

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