韓国はカンニング天国? 止まらない米進学試験問題流出
産経新聞 2013年6月29日(土)20時30分配信
韓国で米国の大学進学適正試験(SAT)の問題が流出したとして韓国検察が語学予備校12校を家宅捜索し、試験そのものが韓国で中止となる前代未聞の事態が起きた。韓国でSATや英語能力テストのTOEICの問題流出はこれまでも頻発。韓国人の留学熱や英語試験の得点の高さは日本でも話題になるほどだが、裏では、学校ぐるみの不正がビジネスとしてまかり通っていたとあって韓国世論は「国の恥だ」と批判を強めている。(桜井紀雄)
■初の国単位の試験中止
SATは米国の大学に進む際の学力を測る試験で、日本では、大学入試センター試験に当たる。米国だけでなく、米留学学を目指す受験生のために各国で試験が実施され、世界中で年間約300万人が受験するといわれている。
米国での学位が「最大のステータス」とみなされる韓国でもSAT受験生は多く、韓国メディアによると、SAT対策専門の予備校が約100校にあり、年間数千人が学んでいるとされる。
その韓国の受験生全員にSATの試験そのものの中止が突然、通告されたのは5月のことだった。SATをめぐって国単位で試験が中止されたのは初めての事態だった。
SATの問題が組織的に流出した疑惑が浮上したためで、韓国検察は2月にSAT専門予備校を一斉に家宅捜索し、ソウル市も市内約60校の調査を実施していた。
事態は5月の試験中止だけに止まらず、6月に入ってからも科目別の生物の試験が中止され、一部の受験生の受験資格が取り消された。
韓国での問題不正流出をめぐり、SATを主管する米非営利組織カレッジボード側は「(既に結果が出ている)過去の試験でも証拠が見つかれば、成績を無効にする」という厳しい姿勢をみせている。
また、ソウル市が調査の結果、資格を持たない留学生に講師をさせていたなどとして8校に閉鎖命令を出した。
■時差を悪用、タイで問題入手
カレッジボード側が特定の国に対して異例ともいえる厳しい対応をみせているのにはわけがある。韓国ではこれまでも幾度となく試験問題流出が起きていたからだ。
SAT問題流出をめぐり、2007年には韓国の受験生約900人の成績が全て取り消される事態があった。10年にも問題を不正に持ち出したとして予備校講師らが摘発されている。
典型的な手口は、タイなど東南アジアの比較的監視の緩い試験会場に予備校講師やアルバイトが潜り込み、一部ずつ丸暗記したり、こっそり書き写したりして問題を持ち出し、韓国で問題全体を復元し直す方法だ。
タイと米国では、時差で試験開始に半日の開きがあるため、タイで入手した問題を米国で受験する韓国人受講生にメールなどで教えるという行為も横行していた。
問題用紙を破いたり、問題部分だけくり抜いたり、工学用の計算機に入力したりして問題を持ち出すこともあった。
そもそもSATでは、問題を蓄積しておいてその中から順次出題していくという方法をとっている。このため、「既出問題」を集める行為自体が「カンニング」とみなされるのだ。
試験内容を漏らさないことが受験生の「同意書」にも明記され、カレッジボード側は「許可しない試験資料を保有または公開する行為は全て不正だ」との立場を取っている。
今回、SAT専門予備校を捜査している韓国検察も、あらゆる方法で問題を持ち出す韓国の予備校のやり方が著作権法違反や業務妨害に当たるとみている。
■買い手は女子アナや一流大生
だが、韓国メディアによると、「既出問題の入手」は韓国の予備校では一種当たり前の「慣行」として行われてきたという。
SAT専門予備校はソウルの高級住宅地として知られる江南(カンナム)地区に集中。学費は約1カ月の短期集中コースで1000万ウォン(約85万円)に上る。年俸が20億ウォン近くになる人気講師がいる一方で、当然、予備校間の競争は熾烈(しれつ)だ。
受講生や保護者が求めるのは、SATでの高得点であり、手っ取り早い勉強法だ。「既出問題」を集めるのが一番の“抜け道”となる。
問題流出はSATに限らず、韓国でSATが中止された時期と前後してTOEICなどの問題を小型カメラなどを使って不正に入手していた組織が摘発された。その“顧客”には、テレビ局の女子アナウンサーや大企業の社員、一流大生、名門ロースクール生が名を連ねていたことから世間をあきれさせた。
また、昨年には、TOEIC対策専門の語学学校で売り上げ1位を誇る「ハッカーズグループ」が、社員らに丸暗記させたり、特殊レコーダーを使ったりして問題を組織的に漏洩(ろうえい)させたとして検察に摘発されていた。
SAT中止を受け、有力紙、中央日報は社説で「不正を犯した語学学校は韓国の国としての品格を落とす犯罪者だ」と厳しく批判した上で、事件が起きた背景として「点数を上げることができるならどんな方法を使っても関係ないという一部学生や父母の曲がった意識が根底にある」と指摘した。
別の有力紙、朝鮮日報も社説で「一連の事件は、どんな手を使ってでも点数さえとれればいいという学生や保護者、予備校が一体となって起こした“貪欲ショー”だ」と非難した。
ただ、同様の批判は予備校ぐるみの問題流出が起きるたびに繰り返されてきた。「何を学ぶか」ではなく、「米国に留学した」ことがステータスとみなされる社会の意識が少しは改まらない限り、流出がやむことはなさそうに思えるのだが。