<降圧剤疑惑>データ改ざんの関与否定 製薬会社が初会見
毎日新聞 2013年7月29日(月)21時36分配信
降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)に脳卒中予防など血圧を下げる以外の効果もあるとした臨床試験疑惑で、発売元の製薬会社ノバルティスファーマ(東京)が29日、初めて記者会見を開き、第三者機関による調査結果を発表した。データ操作が明らかになった京都府立医大など5大学の臨床試験に関与していた社員らを調べた結果、「データの意図的な操作、捏造(ねつぞう)、改ざんなどをした事実は認められなかった」と不正への関与を否定した。一方で、社員が不適切な関与をしてきた各大学の論文を薬の宣伝に利用してきたことについては、「おわび申し上げる」と問題があったことを認めて陳謝した。
会見で二之宮義泰社長は「社員が関与し、いまだに真相究明に至らず、大変申し訳ない。会社の責務として、二度とこのようなことが起こらないよう再発防止を徹底する」と述べた。
バルサルタンの臨床試験は、東京慈恵会医大、府立医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大の5大学で実施された。同じ社員(既に退職)が全ての試験に関与していたのに、論文に社員が関わったことが伏せられていたことが発覚。さらに、ノ社が府立医大に4年間で1億円余の奨学寄付金を贈っていたことも毎日新聞の報道で表面化した。
これを受け、ノ社のスイス本社は4月に調査を第三者機関に委託。17人の弁護士と法律専門家らが、社内コンピューターに残されたメールや電子文書など15万件を詳細に調べ、経営陣、社員15人、元社員2人から聞き取りをした。
その結果によると、一人の元社員が、研究の進め方や研究事務、統計解析、論文の執筆作業などに参加していたことが判明したほか、少なくとも二つの臨床試験で、解析に使う患者の症例を決定する委員会に出席していた。しかし、この元社員はデータの操作を否定。データを操作した証拠も見つからなかった。
元社員は論文上、社名を伏せて肩書を当時非常勤講師だった「大阪市立大」としていた。調査結果によると、元社員はその理由について「大阪市立大の非常勤講師として研究に参加していたため、許されると思い込んでいた」と釈明したという。また、調査結果は「5大学の研究者は元社員がノ社の社員であることを、認識していたか、認識してしかるべきだった」との見方を示した。
ノ社が府立医大だけでなく、他の4大学の臨床試験も奨学寄付金で支援していたことも判明したが、金額は公表しなかった。調査報告書は「ノ社は奨学寄付金が臨床試験の支援に用いられることを意図し、大学も認識していた」と指摘した。
一方、試験に深く関係した多くの社員は既に退職し、聞き取りできていない。【河内敏康、八田浩輔】
【ことば】
◇ノバルティスファーマ
世界140カ国以上に展開するノバルティス(スイス・バーゼル)の日本法人として1997年設立。医薬品の開発や輸入、製造、販売を行う。社員数は4417人(2013年1月現在)。12年の売上高は3234億円。
◇バルサルタン
ノバルティスファーマが商品名ディオバンで2000年に販売を開始した。発売後の02〜04年に東京慈恵会医大や京都府立医大など5大学で臨床試験がされ、血圧を下げる以外にも脳卒中などに効果があると結論づけられた。だが府立医大の論文でデータ操作が明らかになり、各大学がデータを検証している。