『相続探偵』赤楚衛二の多彩な演技が光る 驚きと切なさが胸に押し寄せる意外な結末

人は良くも悪くも忘れてゆく生き物だ。美しい景色、愛しい人の横顔、楽しかった思い出も。すべて画像や動画みたく記憶にとどめ、いつでも取り出せたらいいのに……と思うが、それはそれで案外辛いものなのかもしれない。 『相続探偵』(日本テレビ系)第2話で、相続探偵の“ハイエナ”こと灰江(赤楚衛二)が対峙する相手は“後妻業の女”。ミステリーではありがちなテーマではあるが、その意外な結末に驚きと切なさが胸に押し寄せてきた。代表の灰江は優秀な探偵ながら、経営状況は常に火の車の灰江相続調査事務所。そんな中、報酬1千万円もの依頼が舞い込む。 都内に住む資産家の男性・島村(寺井義貴)が心筋梗塞で急逝し、3億円の保険金と7億円近い資産、合わせて10億円の遺産が、遺言書に従って元銀座のホステスである妻・紗流(宮内ひとみ)の手に渡った。 紗流は過去にも3回、身内となった者を亡くし、高額な生命保険支払金を受け取っている要注意人物であり、灰江はもともと知り合いである大手生命保険会社『大国生命』の鬼頭(矢柴俊博)と、島村と前妻との間に生まれた中学生の娘・真琴(毎田暖乃)の依頼で島村が彼女に殺されたという証拠を突き止めることに。 だが、司法解剖の結果、島村の遺体から不審な点は何も見当たらず、遺言書も本人の自筆と断定されていた。令子(桜田ひより)は家政婦に、灰江と朝永(矢本悠馬)は白アリ駆除業者を装って紗流の家に上がり込むが、彼女のパソコンの履歴からロシア語でのやりとりが見つかった以外は何も成果は得られない。それどころか、令子の魅力に灰江と朝永までもが翻弄される始末。 もし本当に彼女が島村を殺害し、遺言書を偽造したのだとしたら、何の綻びもなく全てが完璧すぎる。そこに違和感を持つのが、灰江だ。紗流の家には、彼女が描いたという本物と寸分違わぬクロード・モネの絵が飾られていた。さらに、真琴から島村が紗流と交換日記で愛を育んでいたことを聞いた灰江の中で点と点が繋がる。 紗流は見たものを全て映像として記憶できる能力の持ち主だった。またホステス時代、客と交換日記をしたり、他の女の子から頼まれて客へのカードを代筆したりしていた彼女はその膨大なデータの蓄積から、他人の筆跡を真似できるようになった彼女は島村の遺言書を偽造。ロシアのルートで手に入れた、司法解剖では引っかからない“名もなき毒”で殺害したというのが今回の真相だ。 元夫たちの遺産も同じ方法で手に入れていたが、3人目の和也(山川源太)だけは違った。裏組織にダマされて後妻業に手を染めることになったが、和也と出会い、恋に落ちた紗流は足を洗おうとしていた。だが、それを裏組織が許すはずもなく、紗流の目の前で和也はひき逃げで殺されたのである。 本当なら一刻も早く忘れたくなる瞬間を、ずっと、しかも鮮明に覚えていなきゃいけないというのはどれほどの苦しみだろう。自分のせいで愛する人を死なせてしまったことへの罰として、彼女は悪女を貫いてきたのではないだろうか。そうすることでしか生きてこられなかった背景を考えると同情できる余地もある。だが、罪は罪。紗流に殺された男たちにも人生があり、島村は真琴にとって離婚しても唯一の父親だったことには変わりない。 紗流は相続権を喪失したどころか、殺人犯として逮捕される。「事情はどうあれ、あなたを愛した男たちの命を奪った罪は重い」と彼女を厳しい目つきで断罪した灰江だが、「彼女はおそらく死刑だよ」と令子に語る時の表情は憂いを帯びていた。自分が紗流の罪を暴けば、そういう結果になることくらい灰江も分かっていたに違いない。でも、それは致し方ないこと……と簡単には割り切れないところに人としての温かみを感じる。 それにしても、その鋭い観察眼もさることながら人脈の広いこと。相続探偵という職業柄、保険会社勤務の鬼頭と関わりがあるのはまだわかるが、クラブのママ・ハルコ(松岡依都美)や高利貸の金山(渋川清彦)など、繋がりは多岐に渡る。全てが謎に包まれているが、唯一分かっているのは弁護士だった時代に横領事件を起こしているということだ。フリーの週刊誌記者・羽毛田(三浦貴大)の「あんたも前みたいな汚いインチキやらかしてくれたら、また記事にしたってもええで」という言葉に、怒りで震える灰江。赤楚の多彩な演技が光る、灰江七生というキャラクターに興味をそそられてやまない。

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